核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

2018-11-12から1日間の記事一覧

夏目漱石「従軍行」雑感

国民的作家と呼ばれる夏目漱石が、「僕の従軍行などはうまいものだ」と自賛した、新体詩「従軍行」を岩波版全集より、七回に分けて転載しました。私は今でも漱石がすぐれた小説家であることは否定しませんが、彼が平和主義者であるとか、天皇制への批判者で…

夏目漱石「従軍行」 七/七

※ 七 戦やまん、吾武揚らん、 傲る吾讐、茲に亡びん。 東海日出で、高く昇らん、 天下明か、春風吹かん。 瑞穂の国に、瑞穂の国を、 守る神あり、八百万神。 ※

夏目漱石「従軍行」 六/七

※ 六 見よ兵(つわもの)等、われの心は、 猛き心ぞ、蹄(ひづめ)を薙ぎて。 聞けや殿原、これの命(いのち)は、 棄てぬ命ぞ、弾丸(たま)を潜りて。 天上天下、敵あらばあれ、 敵ある方に、向ふ武士(もののふ)。 ※

夏目漱石「従軍行」 五/七

※ 五 殷たる砲声、神代に響きて、 万古の雪を、今捲き落す。 鬼とも見えて、焔吐くべく、 剣(つるぎ)に倚りて、眥(まなじり)裂けば、 胡山のふゞき、黒き方より、 鉄騎十万、奔として来る。 ※

夏目漱石「従軍行」 四/七

※ 四 空を拍つ浪、浪消す烟、 腥さき世に、あるは幻影(まぼろし)。 さと閃くは、罪の稲妻、 暗く揺くは、呪いの信旗。 深し死の影、我を包みて、 寒し血の雨、我に濺ぐ。 ※

夏目漱石「従軍行」 三/七

※ 三 天に誓へば、岩をも透す、 聞くや三尺、鞘走る音。 寒光熱して、吹くは碧血、 骨を掠めて、戛として鳴る。 折れぬ此太刀、讐を斬る太刀、 のり飲む太刀か、血に渇く太刀。 ※

夏目漱石「従軍行」 二/七

※ 二 天子の命ぞ、吾讐撃つは、 臣子の分ぞ、遠く赴く。 百里を行けど、敢て帰らず、 千里二千里、勝つことを期す。 粲たる七斗は、御空のあなた、 傲る吾讐、北方にあり。 ※

夏目漱石「従軍行」(一九〇四(明治三七)年) 一/七

※ 従軍行 一 吾に讐あり、艨艟吼ゆる、 讐はゆるすな、男児の意気。 吾に讐あり、貔貅群がる、 讐は逃すな、勇士の胆。 色は濃き血か、扶桑の旗は、 讐を照さず、殺気こめて。 ※ 初出『帝国文学』第十巻第五(明治三十七年五月十日発行) 引用は岩波書店『漱…