核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

半藤一利『日露戦争史1』(平凡社 2012)中の村井弦斎の記述

 同書の26~27ページに、村井弦斎の小説「匿名投書」のあらすじが紹介されています。
 
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 たとえば明治二十三年発表の村井弦斎という流行作家の「匿名投書」という作品がある。
 ある日本人の匿名の新聞への投書に、ロシアのアジア侵略の野望を口汚く攻撃する文章があった。これがロシアの新聞に転載されて、ロシア政府は怒り心頭で宣戦を布告してくる。攻め込んだロシア軍は九州、四国を占領し、そこから大部隊をくりだして静岡県に上陸し東京攻撃にとりかかる。さながら幕末の西軍が江戸に迫りくるがごとくに。と、ある科学者がすばらしい反撃プランを考案し実行する。敵の大軍が箱根の天下の険にさしかかったとき、山を木ッ端微塵に爆発させてこれを全滅させる。これで目出度し目出度し。
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 伊藤整の『日本文壇史7』にも同じ間違いがありますが、科学者が爆発させたのは箱根ではなく富士山です。他にも原作を読んでいると違和感のある箇所がいくつかあり(「口汚く」「幕末の西軍が江戸に迫りくるがごとくに」)、半藤氏が「匿名投書」を実際には読んでいないことは明白です。
 引用文の直後にある、「明治四十年の日本」や「東洋の大波瀾」のあらすじも、伊藤整日本文壇史7』(講談社文芸文庫版 194~196ページ)のそれと酷似しており、孫引きと断言できます。
 これに限らず、半藤一利日露戦争史』には資料の偏りや、実証性のない独断的な記述が多々あり、日露戦争についてまじめに勉強したい方にはおすすめできない本です。