核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

小川未明「野ばら」

 『戦争に対する戦争』(一九二八(昭和三)年)に収録された童話。
 大きな国の老人兵士と、小さな国の青年兵士が、国境の番をしているうちに、将棋をさすなどしてうちとけていくものの、やがて戦争が始まり、小さな国の青年は北方の戦場に駆り出されていく……という筋です。
 小川未明という人は、太平洋戦争期には戦争を賛美する童話を書き、終戦後はそれをなかったことにして平和的・民主的な主張に転じ……といったふるまいがあったことが、増井真琴氏の最近の一連の研究によって明らかにされています。
 しかし、「野ばら」に関しては、『戦争に対する戦争』中の傑作と思います。敵/味方というシュミット的な二分割を認めつつも、どうかしてそれを無化しようとする志向を感じます。
 それ以外の『戦争に対する戦争』収録作すべてを熟読したわけではないのですが、どうもぎすぎすした、敵/味方を別の敵/味方におきかえただけのような作品が目につきました。シュミットを越えることの困難を感じます。