福地桜痴が桜田門外の変(井伊直弼暗殺)を詠んだ「刺客歌」という漢詩の一節です(山田俊治『福地桜痴』三四~三五頁より)。井伊直弼の独裁政治を批判しつつも、その暴力に暗殺という暴力で対応する刺客たちの行動を、桜痴は認めませんでした。
……これだけなら立派なのですが、この詩は「なぜその日本刀でずる賢い海外勢力を滅ぼそうとしないのか」という句で結ばれています。国内のテロには厳しくとも、対外戦争までは否定できませんでした。平時には非戦非暴力を掲げながら、日清・日露戦争時には非戦を貫けなかった後の桜痴に通じる、論理の弱さが見られます。