核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

「『三国志』の著者、吉川英治」

 ボルヘスに「『ドン・キホーテの著者、ピエール・メナール」という短編があります。二〇世紀の文学者であるピエール・メナールが、古典『ドン・キホーテ』の一部を、パロディや現代版ではなく、一字一句そのままに書く。すると読者は、セルバンテスが書いた『ドン・キホーテ』とはまったく違う作者の意図を読み取ってしまう、という話です。

 吉川英治の『三国志』はかなり日本人向けの改変がなされており、一字一句そのままとはほど遠いのですが。それでも、一九四〇年代の日本で『三国志』を書くという営みは、陳寿の正史とも羅漢中演義とも違う意味あいを持たずにはいられないわけです。

 たとえば、仮に桃園の誓いが掲載された新聞の同じページに、「日独伊三国同盟締結か」なんて記事が載っていたとしたら。孔明の南蛮遠征と仏印侵略が同時期だったら。同時代の読者にせよ、戦後の私にせよ、作者の意図をかんぐらずにはいられません。

 ……といった方向かどうかは知りませんが、吉川『三国志』の研究はすでに着手されているようです。私はただの素人の三国志ファンなので、ブログに書くにとどめておきます。