核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

H・G・ウェルズ「バチルス泥棒」

 「透明人間」や「タイムマシン」で知られる(先駆者ではないようですが)ウェルズ。感染症を扱ったショートショートを、デジタルコレクションで発見しました。

 細菌学者が訪問客に、「コレラのバチルス」が入った容器を見せます。訪問客は実は無政府主義者で、細菌学者が目を離したすきにバチルスを盗み、ロンドンの街中でそれを飲んでしまいます(自爆テロですね)。しかし細菌学者が言うには、実はあのバチルスは生物を青くするもので(「赤化」の逆?)、コレラなんかじゃなかったのでした。

 最後の一節は、学者を追っかけてきた妻への以下の会話で終わります。

 「外套を着ろつて、この暑いのに?(略)何故こんな暑い日に外套を着なくてはならないのかね」

 実は学者のほうが勘違いしていて、コレラで熱が出たことに気づかなかったのでしょうか。気になるオチです。

 出典は、和気律次郎訳「英米七人集:清新小説」(大阪毎日新聞社 1922)。

 

 追記 2010年に「盗まれた細菌」という題で翻訳されてました。また、コレラの初期症状で発熱はないそうなので、「この暑いのに?」には特に意味はないのかも知れません。