核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

『児女英雄伝』の先行研究

 デジタルコレクションで検索したところ、松田郁子氏の博士論文、『清末の小悪党とフェミニズム : 呉趼人の小説の意義』(2016)に、児女英雄伝への言及が見つかりました。

 

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 3)文康(乾隆末?―1865 年以前)『児女英雄伝』(1850 頃?)
【何玉鳳と張金鳳】:何玉鳳は十三妹を名乗る女侠客。悪党和尚に捕らえられた安公子と手籠めにされかけた張金鳳を救出し、二人を同時に守って同席させるには、夫婦にするしかないと強引に娶せる。後に、十三妹は実は安公子の父安学海の親友の娘であったと知れる。
安学海は彼女を嫁にと望み、張金鳳に説得され公子に嫁ぐ。
十三妹は、不正の財貨を奪って母を養い、冤罪を被り死んだ父の仇打ちを悲願とする女盗賊である。悪党を一刀両断に切って捨て強きを挫き弱きを助ける女侠で、切れの良い科白や竹を割ったような性格等中国伝統小説の中でも出色の女性像であるといえる。大人しく優しい安公子を‘良い婿だわ’と張金鳳に取り持つ行為に、彼女自身の公子への好感が現れている。
淑やかで思慮深い張金鳳は何玉鳳の気持ちを汲み取り、嫁いだ後に今度は自分が仲立ちしようと心に決める。作者が男性である故か、話はただ安公子にのみ都合よく展開していく。また十三妹は、父の仇討ちが済んだとなると、何玉鳳に戻り、儒教の教条を遵守する賢婦賢妻に変身する。雄々しく愛らしい十三妹の不自然な変身は惜しまれる。しかし、作者文康は作中に度々“『紅楼夢』とは違う古い考え”を強調し、“堅実健全な世界”を趣旨としていた。
纏足で剣を振るい気弱な公子をずけずけと叱咤し、緑林の好漢たちから“畏怖される女侠”像は、“仇敵からの避難”や“母の扶養”という設定に対する緊急避難的対応として描かれたと思われる。清中期には、“夫に尽くし家運を盛り立てる複数の妻”が、普遍性をもつ幸福な女性像であったのであろう。 

  (122-123頁)

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 まさにお説の通りで、せっかくの型破りな児女英雄が、家庭に入って平凡になってしまう結末は惜しまれます。