修士論文を書いた時にはうかつにも知りませんでした。
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客観、主観両方面の文学には妙な差違が籠っております。純乎として真のみをあとづけようとする文学にあっては、人間の自由意思を否定しております。(略)
ところが情操を本位とする文学になると、好悪があり、評価があるんだから、篇中人物の行為は自由意志で発現されたものと判じてかからなければならない。右へも行ける。左へも行ける。のに彼は右を棄てて左へ行った。だから、えらいとなります。感心だとなります。
「創作家の態度」 磯田光一編『漱石文芸論集』(岩波文庫 1986 139~141)
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漱石はこの二種類を「双方とも大切」としてはいますが、どうも後者に力点を置いているようです。