一応眼を通しましたが、第二次長州征伐から鳥羽伏見の戦いまでの、幕末の動乱はわずか2ページで片付けられるありさまでした。時勢は完全に背景で、筋は小幡兄弟と二人の女性(いじわるな兄嫁と、清純な弟の恋人)の関係をひたすら追っています。
幕末なのに「恋愛」を行動原理とする弟の人物造形はちょっと目新しいのかも知れませんが、『カラマーゾフの兄弟』みたいな思想対立のドラマを期待していたこっちには肩すかしでした。
少し前に桜痴が書いた『女浪人』とは比較にならない通俗時代小説です。福地桜痴らしい、生き生きとした主張は感じられませんでした。