核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

木下尚江『火の柱』(新聞初出版)における画文学ーメガネはどこから出たー

 スキャン画像を出すほどの大ネタでもないので、手短にまとめます。

 一九〇四(明治三七)年一月一日、『毎日新聞』第二面。その小説『火の柱』本文に出てくる山木姉妹(ことにメインヒロインの山木梅子)の描写のどこを見ても、「秋の夜のすゞしき眼」なんて形容はありますが、眼鏡への言及はありません。にもかかわらず、挿絵の女性はめがねをかけているのです。

 その後も本文に描写はないにも関わらず(眼への描写はありますが)メガネ。接吻場面(ご安心ください。女性が相手です)でも眼鏡。

 本文中でのめがねへの言及は、同年二月二二日一面の五十二回、すれちがった職人体の三人組が、梅子を「束髪で、眼鏡で、大分西洋がかつたハイカラ式の弁天様だ」と呼ぶ場面までないのです。

 眼鏡かけっぱなしヒロインは作者木下尚江の嗜好だとばかり思っていたのですが、どうもそうではなく挿絵画家の趣味で、小説本文が挿絵に根負けした形のようです。

 うっかり「木下尚江における眼鏡表象」なんて論文を書かないでよかった。なお、単行本版では、小説冒頭に現れる二人の学生が、梅子の眼鏡について言及しています。