核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

木下尚江『火の柱』における画文学 その2ー伊藤侯爵と行徳秋香ー

 新聞連載で『火の柱』を読まないとわからない、小ネタをもう2つほど。

 この作品には政界の黒幕として「伊藤侯爵」が、主人公と非戦論をともにする同志として「行徳秋香」(ぎょうとくあきか)という登場人物が出てきます。

 それぞれ伊藤博文幸徳秋水がモデルなのですが、挿絵もまた、伊藤侯爵は大昔の千円札でおなじみの長いヒゲとホクロ顔に、行徳秋香は同時代人に「平家蟹」と称された平べったい顔に口ヒゲと、明らかにモデルに似せて描かれています。

 当時は穏健派だった幸徳秋水はともかく、政界の元老伊藤博文を本物そっくりに描くのは、かなり勇気のいる行為だったと思うのです。なお発禁処分は受けていません。

 挿絵画家は平民社のシンパ(思想上の随伴者)だったと推測できるのですが、果たして何者なのでしょう。『木下尚江全集』によると、解説では岡落葉、尚江自身の回想では平福百穂となっていました。途中で画風が変わるので、岡と平福が途中で交代したのかも知れません。