核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

『更級日記』における、物語の断片からの期待ー千年前の中二病ー

 WIKIBOOKS様より、『更級日記』の一節の現代語訳を引用します。

 

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 世の中には物語りというものがあるのを(聞き)、どうにかして読みたいと思いながら、することもない昼間や、夜の起きている時などに、姉や継母などの人々が、その物語、あの物語、光源氏(※『源氏物語』の主人公)のありさまなど、ところどころ語るのを聞くと、ますます知りたいけれど、私の思うように(姉や継母が)暗記して語るだろうか。(いや、そんなはずはない。) (私は)とてもじれったく思うので、等身大の薬師仏を造って、手を洗い清めるなどして、人がいない間にこっそり仏間に入ったりして、「京に早く上らせてくださり、物語が多くあります、(その物語を)ある限り見せてください。」と、 身を投げ出して額を(床に)つけて、お祈り申し上げるうちに、十三になる年(= 一○二○年、寛仁(かんにん)四年 )、(父の赴任が終わり)上京しようということで、九月三日に出発して、いまたちという所に移る。

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 「十三になる年」というのは数え年でしょうけど、現代でいう中二病を連想させるものがあります。物語(ここでは『源氏物語』)の、断片的な部分だけを聞かされ、全体像をあれこれ想像して、じれったくも待ち遠しい気分になるというのは。薬師仏はさしずめフィギュアでしょうか。

 私の中二時代でいえば、『トンネルズ&トロールズ』(略してT&T)というTRPGがそれに当たりました。膨大な背景世界が設定されているらしいのに、基本ルールブックには世界地図さえ載ってなかったもので。雑誌『ウォーロック』なんかの断片的な記述を頼りに、世界観をあれこれ想像し、友人たちと手探りでTRPGを始めたものです。

 はるか後年になって、インターネットや復刻本でT&T世界の全体像をつかめた時は大喜びしたものですが。それでも、あの中二時代のじれったさ、待ち遠しさを懐かしく思うこともあります。

 よく作り込まれた物語の断片というものは、その向こう側に別の広大な異世界が広がっているような、わくわく感を与えてくれるものです。ポストモダンの時代に限ったことではありません。