北原白秋関係をデジタルコレクションで検索していたら、「北原白秋の反戦詩」という、気になる語句を見つけました。
松本恭輔「「聖戦」を鼓舞した詩人たち」(『新日本文学』一九九五年一二月)という論文で、「北原白秋の反戦詩」として紹介されている、一九二一(大正一〇)年三月の『赤い鳥』に載った、「今夜のお月さま」という詩です。以下全文孫引き。「/」は改行に改めました。
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海のあなたに出た月は
今夜はべに色、
茜色。
父さま若しかと出て見れど、
お船の煙も
まだ見えぬ。
いくさが果てたか、死んでてか、
お鳩のたよりも
まだつかぬ。
今夜のお月さまなぜ紅い、血染の色して
なぜ紅い。
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シベリア出兵ただ中の詩。出征中の父親への心配を、不吉な赤い月の色に重ねた情景です。
しかし、「反戦詩」と呼べるかどうかは疑問です。日露戦争期の大塚楠緒子「お百度詣で」と同様に、戦場の肉親を想う詩ではあっても、戦争そのものに異を唱えてはいないからです。