百科事典マニアの血を騒がすこの一冊。
「穀類」「衣服」「製陶」「舟車」「鍛造」「製錬」「醸造」などの18項目の手工業技術を、豊富な挿し絵入りで解説しています。
「十六 朱墨
私(宋応星)はこう思う。学問は千古にわたって衰えない。著述に没頭して無位無官のままであったという故事(訳注によると『漢書』楊雄伝が出典だそうです。あに楊雄のみならんや)があるが、著述と立身出世を求めることと、どちらが仕事として大きいであろうか」
応星自身も兄とともに官吏の一次試験を受けたのですが、立身出世のコースにはのれませんでした。四書五経への忠義立てを見せびらかす試験用作文など、この実証主義者にはばかばかしくて書けなかったのではないでしょうか。毎度デリさんフーさんランちゃんの引用をならべただけの山なし落ちなし意味なし論文ばっかり読まされてる身には、応星の「金よりも鉄、玉より陶器」な生き様がまぶしく見えます。ほんと、こういうの読んでると私はしあわせな気分になれるのです。
まあ、しあわせな気分になれない章もあります。科学技術の進歩による色あせは仕方ないとしても、「天工」すなわち自然の造化を絶対視し、「開物」すなわち人間の努力を下に見る世界観は、たとえば以下のようなニヒリズムを生みました。
「十五 兵器
・・・といった認識のもとに、応星は「万人敵」なる毒ガス弾の製法を図入りで紹介しています。万人敵とはよくも名付けたり。