核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

賀川豊彦『空中征服』より 蟹の無傷害主義

 人間社会に倦み、川底の自然世界に隠遁した賀川豊彦市長。しかしそこも、党派や闘争と無縁の地ではありませんでした。鋏と甲羅で武装した恐ろし気な蟹から、意外にも聞かされる軍備縮小論。

   ※
 蟹は涙を流して、自己の不運を嘆いた。蟹の虜となりながら、蟹の話しをきかされると同じように彼も悲しくなった。
「君は無抵抗主義か? 」
 と蟹はだしぬけに聞いた。
「そうですね、人はみなそう言います。しかし、私は徹底的の抗争論者です。ただその抗争を暴力でしたくないだけです」
「暴力のほかは、何でもよいのか? 」
「まア、そうです」
「そのほうが賢いなア」
「私はもう帰りたくなった。帰らせてくれませんか」
「もう少し俺に話してくれ。俺はさびしい。軍備縮少の話でもしてくれ。……世界は果して、軍備を縮少して安全であり得るかどうか。それを話してくれ! 生存競争はどの程度まで必要なのだ。それについても教えてくれ、己は今煩悶しているのだ。俺は産れ落ちてから、こんな重い甲冑を着せられているので、そのことばかりが、煩悶の種になっているのだ」
   ※

  「暴力のほかは、何でもよいのか?」「世界は果して、軍備を縮少して安全であり得るかどうか」そのへんをもう少し突っついてほしかったところです。蟹だけになかなか議論が前進しません。