核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『春秋左氏伝』 その8 宋襄の仁

魯の僖公22(紀元前638)年。川を渡って攻めて来た楚の軍に、宋の襄公が相手の陣列を整えるまで待ったために大敗し、襄公自身もその時の傷がもとで死ぬことになったという故事。「無用の情け」の同義語として使われています。 一応、襄公自身のコメント…

ヤウス『挑発としての文学史』(轡田収訳 岩波書店 1976) その4

深入りしだすと深入りになるので、結論を書き写して終わりにします。 ※ 以上述べて来たところからの結論として、社会生活における文学特有の効用は、まさに文学が”叙述的な”(””内は傍点)芸術の機能に尽きてしまうのではないところに求められる、と言うこと…

『フローベール全集 1 ボヴァリー夫人』(筑摩書房 1965)

実はヤウスの言ってることがどうも腑に落ちなくて読んでみました。 『ボヴァリー夫人』(伊吹武彦訳)も再読しましたが、お目当ては附録の裁判記録のほうです。 ピナール検事の論告(沢田閏(正確には門がまえの中に壬)訳)は以下のごとく結ばれていました…

ヤウス『挑発としての文学史』(轡田収訳 岩波書店 1976) その3 ボヴァリー夫人関連

実は新潮文庫版および筑摩全集版で『ボヴァリー夫人』なんてものを二度読みしてみたのですが、正直、どのへんに革新的な意義があったのか理解不能でした。ヤウスの言う「非人称的(ないしは局外者的)な語り方」というのは、フランス語で読まないとわからな…

ヤウス『挑発としての文学史』(轡田収訳 岩波書店 1976) その2 カール・ポッパー関連

予想外に手間取りました。いつもなら元の文章をそのまま引用してすませるところですけど、どうも訳文が硬くて。 こういうことだろう、と自分なりに見当をつけてまとめてみます。 ポッパー(Popper。「ポパー」と表記されることも)という人は科学哲学では知…

ヤウス『挑発としての文学史』(轡田収訳 岩波書店 1976) その1

かれこれ半年前に読むとかいってそれっきりになってましたが、ようやく入手しました。 ※ 芸術の革命的性格とは、芸術には人間を、歴史的状況に対する固定化した観念や偏見を超えて、世界あるいは先取された現実の新しい知覚へと導く力のあることをいうのであ…

宮城谷昌光『子産』上下(講談社 2000)

『春秋左氏伝』の20世紀日本における受容の一例、というわけで読んでみました。 鄭の大夫で、孔子から「古の遺愛なり」と評された賢人、子産が主人公です。同時代人なので宋の向戌も出てきます。 「向戌(しょうじゅつ) 宋の左師 晋と楚の和平を斡旋」 と…

いきはりの研究―江見水蔭の場合

江見水蔭を読みだしたのは、『三十年後』の内容に彼がどの程度関わっているかを知りたかったからでした。そして見つかったのが、1911年の帰省小説「備前岡山」の一節。 ※ 「戟(ほこ)取りて国に尽すの人よ。其数十万か。筆を提(ひつさ)げて国威を輝か…

また秋葉原にでも行くか…

近デジで読める水蔭作品はまだまだ、いやというほどありますし、星一の著作すら読破していなのですが。 そろそろ国会図書館で見たい物もふえてきたので、また上京することになりそうです。 毎回秋葉原か古本街に寄って帰るというのも実に芸がない話なので、…

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』 後半六篇あらすじ

ネタバレフルバ―スト。 ・「水錆」(1915(大正4年)11月) 鮎の名所入間川で、裸体になって飛び込んだら、なじみの酌婦が泳いで来て…といった青年時代の甘い追憶から始まる、半生の恋愛史をつづった自然主義的作品。第一次大戦下の発表だが言及はな…

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』 前半六篇あらすじ

ネタバレ全開でいきます。 ・「夏の館」(1891(明治24)年7月発表) 好色な大名の手先、おちゃちゃら茶良助に娘を奪われた盲人の悲哀の物語。西鶴調で文章が読みづらい。 ・「焼山越」(1893(明治26)年6月) 実直な炭焼き人が、炭鉱発見で…

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』(1930)

今から7~8年前、名古屋古書会館の100円コーナーで買った円本です。 前半分だけ読んで放置してたのですが、このたび江見水蔭編にも手を出してみることにしました。 箱つき月報つき。広告欄には『モダン東京・円舞曲』なんかもあります。『浅草紅団』の…

『春秋左氏伝』 その7 宋の狂狡

魯の宣公二年(紀元前608年)。鄭が宋に攻め込んだ時のこと。 ※ 戦の最中に、宋の狂狡(きょうこう)が鄭の車に正面から撃ちかかったところ、鄭の人が井に踏み堕ちたので、狡が戟(げき)を逆さにして柄で引き揚げてやったのに、出て来た鄭の人はそのまま…

『春秋左氏伝』 その6 向戌略伝

襄公九年の火災以降の、向戌(しょうじゅつ)の事績をまとめてみました。けっこう平和主義者らしからぬ挿話も。 襄公十年 晋が偪陽(ふくよう)を伐って宋の向戌に与えようとした。 向戌はそれを辞退し、宋公に与えられることになった。 同十一年 宋の向戌が…

『春秋左氏伝』 その5 左官向戌の消火活動

春秋時代の火災についての記録です。魯の襄公(紀元前572~542)年間。 ※ 九年、春、宋に火災があった。このとき楽喜が司城であって、宰相を兼ねていたが、まず伯氏に町並みを守らせ、まだ火の来ないあたりでは小さな家をこわし、大きな家に目塗りをし…

宇都木章「春秋時代の宋の貴族」(予告)

宇都木章「春秋時代の宋の貴族」(『古代学』 16(1), 44-55, 1969-08)。 ネット上で教えていただきました。楽しみです。 (2014・9・11追記 ようやく入手しました。詳細は本日のブログにて)

河野収「古代中国の或る非武装平和運動--向戌の弭兵戦略とその批判-- 」(予告)

河野収「古代中国の或る非武装平和運動--向戌の弭兵戦略とその批判-- 」(『軍事史学』 1978年3月 通巻 52号 第13巻 第4号)。 同号には、亀掛川博正「王政復古後に於ける幕府の動向--慶応三年討薩開戦をめぐって--」という論文もありました。要チ…

『春秋左氏伝』 その4 左伝癖

平和会議関係だけ読むつもりだったのですが、じわじわと深みに入りつつあります。 二千数百年前だというのにこの面白さ。たかだか数十年前に書かれた吉本隆明は、どれ一つとして読むに値しないというのに。 ただ、編年体(年代記形式)ゆえのとっつきにくさ…

『春秋左氏伝』 その3 「兵というものをだれが罷められましょう」

平和会議を無事になしとげた向戌(しょうじゅつ)に、子罕(しかん)という人が言いました。 ※ 「およそ小さい諸侯は晋・楚(引用者注 当時の二大国)から兵力で威(おど)され、そのため恐れを抱いて上と下が手を握り、それで始めて国が安らかになって大国…

『春秋左氏伝』 その2 平和会議の舞台裏

向戌(しょうじゅつ)の提唱した平和会議のため、各国の要人が宋に集まります。 とはいえ、長年にわたって攻めたり攻められたりを繰り返してきた各国、特に晋・楚二大国の垣根は高いものがありました(物理的に)。 ※ みなみな生け垣を作って陣を設け、晋の…

新キャラ、ガンさん

マスオさんやアナゴさんの同僚、ガンさんが今回のゲストキャラです。 石垣島出身で岩波さん。しかし恐妻家。昭和原作っぽい雰囲気です。 そして、来週のサザエさんは、 「カツオがタクシー」 「ホリカワくんの卵」 ほか一本。なかなか期待できそうです。

『春秋左氏伝』 その1 向戌・韓宣子・陳文子の戦争廃絶論

魯の襄公の二十七年(紀元前546年)に開催された、恐らくは世界初の国際平和会議。 ※ 宋の向戌(しょうじゅつ)は晋の趙文子(武)とも、また楚の令尹子木(屈建)とも仲が良い。そこで諸侯に戦争を罷(や)めさせて名を挙げようと思った。戌は晋へゆき、…

「まんが平塚の歴史 村井弦斎」

平塚市のホームページより。 http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/rekisi/gensai-maturi.htm 1ページで簡潔にまとめてあります。 晩年は一コマで「奇人・変人扱いされた」で終わってしまっているのが残念なところです。彼の軍備廃絶論はいまだに正当な評…

「走ってイスタンブール」

「とんで」ではなく、「走って」イスタンブール。 ポケットサイズのボードゲームで、パキスタン・イラク・トルコを疾走してゴールのイスタンブールに着いたものが勝ちという、無茶な設定です。 要はすごろくですが、国境に着くたびに、特定の目を出してビザ…

後藤新平「文装的武備論」(後藤新平述『修養の力』1918(大正7)年)収録

『三十年後』には後藤新平のアイディアも入っているようですが(星新一『明治の人物誌』)、少なくとも、軍備廃絶論は違うようです。 『三十年後』の半年あまり後、1918年11月30日発行の後藤新平述『修養の力』に収録された、「文装的武備論」がその…

矢印の芯

今日のうちに、『三十年後』をもう一度読み返して、作品論の根幹部分をまとめておこうと思います。 江見水蔭や後藤新平関係の厖大な文献を漁るのはその後で。一応、軍備廃絶論はこの二人ではなく星一によるものだと、あたりをつけてはいます。

星新一『明治の人物誌』(新潮文庫 1998)より 『三十年後』関係

「後藤新平」の章より。『三十年後』に後藤の案が入っている説。 ※ そのころ(引用者注 1918(大正7)年4月、後藤夫人の死去した時)、私の父は『三十年後』という未来小説を出版した。薬の進歩によって社会が向上するといった内容で、会社のPRにも…

吉本隆明からは何も学びませんでした。

「多分貴方は吉本隆明ファンではないかと思いますので」というコメントを頂いて、正直面喰っております。 当ブログが吉本に言及したのは、開設2日目の2011年2月26日(http://blogs.yahoo.co.jp/fktouc18411906/archive/2011/02/26)に、いささか不謹慎…

星新一という作家の魅力は何か。 奇抜なアイディア、完全なプロット、意外な結末。 それらに匹敵する要素があの独特の文章です。わけても、あの「や」という感動詞。 「や、さては強盗か」 「や、強盗かと思ったらロボットだったのか」 どんなにぶっとんだ展…

星一『三十年後』 その13(最終回) 星の世界

『三十年後』のあらすじ紹介は今回で終わりです。 不満分子の内乱を犠牲者なしで鎮定した名声により、嶋浦太郎は世界大学校の校長に就任します。独(ドイツ)・墺(オーストリア)・土(トルコ)・勃(ブルガリア)つまり旧同盟国側の留学生は、世界大戦から…