核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』 前半六篇あらすじ

 ネタバレ全開でいきます。

・「夏の館」(1891(明治24)年7月発表) 好色な大名の手先、おちゃちゃら茶良助に娘を奪われた盲人の悲哀の物語。西鶴調で文章が読みづらい。

・「焼山越」(1893(明治26)年6月) 実直な炭焼き人が、炭鉱発見で一攫千金という野望にとりつかれ、愛妻を残して失意のうちに死ぬ物語。これも言文一致前だが、文章は格段に読みやすい。

・「温泉」(1894(明治27)年)。温泉に入ると、奥に真白な物体が。そういえば九歳の少女が働きに来てたなと思って近づくと、「嗚呼、氷の様に早や冷めたく成つて居た」。おまわりさんこいつです的な物語。口語体で、最後の一行↑できれいにオチている。

・「狂詩人」(1893(明治26)年) 掌ほどの庭に降りて、二株三株の萩の中に入ると、そこは一面の萩の原。そしてそこには逃げた愛人のお文さんが…。タイトルですでにネタバレなのでオチは省略。ここから後の作品はすべて口語体。

・「島守」(1897(明治30)年5月) 本州から遠く離れた、虹の島に来た医師の体験談。島の乙女たちからもてもてになるが、誰か一人にしぼれないため結婚できない。

・「泥水清水」(1895(明治28)年4月) 「泥水の巻」「清水の巻」の二部構成。 
 「泥水の巻」 芸者の花鳥にいれあげた、売れない文学者の水島山三郎。身請けするだけの金がなく、三日間だけ素人に戻ってもらう契約を交わす。
 「清水の巻」 本名の中里佐保に戻った花鳥と、三日間だけの新婚旅行気分を楽しむ水島。戦争中(日清戦争期)にこんなことしてていいのか、と自責する。そして三日目がきて佐保は去っていき、水島は不平と堕落の極に堕ちていく。

 ストーリーがくっきりしている、という印象を受けました。短くまとまって最後の一行で落ちる。ショートショートというジャンル名は日清戦争期にはありませんが、それを先取りしたような作風です。