核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

カール・シュミット『政治的なものの概念』(一九三二) その1

引用は『カール・シュミット著作集1』(慈学社出版 二〇〇七)より。 ※ 敵はhostis πολεμιος(ポレエミオス)であって、広義のinimicus εχθρος(エクトロス)ではない。ドイツ語は他国語と同様「私敵」と政治上の「敵」を区別しない。そこから多くの誤解や…

カール・シュミットのこととか

『経国美談』論も『日の名残り』論も一段落したし、ラヴクラフト小噺もネタ切れだしで(断片的には思いつくんですけどね。ウィルバー兄弟が天秤棒をかつぐ「黄金の花見酒」とか)、前にコピーしたまま放置してた、シュミットの『政治的なものの概念』でも読…

小噺「あたま山脈」

ある不浄な旧支配者、生まれた眷属を食っちゃ寝食っちゃ寝していたら、あたまから触手が生えてきて、笛や太鼓を持った従者が群がり、てけりりてけりりと大騒ぎ。 あたまに来て触手を引っこ抜くと、今度はそこが海になって、漂流してきた人間が群がり、窓に窓…

カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 『日の名残り』(中公文庫 1994) その2

このたび再読して、やっぱり英国執事スティーブンスは無理してアメリカンなご主人様に合わせるよりも、引退して「真・日の名残り」を楽しんだ方がいいのでは、と思ったのですが。 貯えが予想外に少ないのです。 ※ たとえば、旅の費用です。「ガソリン代はぼ…

小噺「クトゥルフこわい」

「ちっとも名状しがたくねえ?深え野郎だ。やい、おめえが本当に一番こええ旧支配者は誰だ?」 「へへへ、アトラック・ナチャがこわい」

『日の名残り』再読

次の論文は「将軍」論に決まりましたが、その前にカズオ・イシグロの『日の名残り』を再読する必要が生じまして。執事スティーブンスの過失とは何か、といったあたりを。

ムフ『左派ポピュリズムのために』(明石書店 近刊 予告)

ムフ先生の新作が読める!のはいいのですが、少々戸惑わせる題名です。 「左派ポピュリズム」?ウィキペディアで下調べしたところ。 ※ 左派ポピュリズム(さはポピュリズム、英: Left-wing populism)は左翼政治とポピュリストのレトリックや主張とを結びつ…

マルメロの原産地は?

「将軍」そのものについての考察が進まず、末尾に出てくるマルメロについて考えてみました。 芥川全集の注釈には南欧原産とあったのですが、ウィキペディアでは中央アジア原産となっていました。 図書館の図鑑で調べてみます。真の問題は芥川がどちらと考え…

将軍は必要か?

「将軍」で論文を書いたものかどうか、いまだに決めかねています。 書けない理由は以前に書いた通りですが、書きたい理由もありまして。 人類にとって将軍は必要か?、といったあたりです。 もちろん必要だ、という方もあるかも知れません。 国民を守るため…

『文豪ストレイドッグス』15巻(予告)

『文豪ストレイドッグス』という漫画の15巻に、「福地桜痴」が出て来るそうです。 今度は「福地桜智」ではなく。 ※ 福地桜痴. 「猟犬」隊長。神刀・『雨御前』を与えられた生ける伝説。異能力は『鏡獅子』。 ※ 今度上京したら探してみます。

非モデル論は成立するか?

「将軍」の最近の研究動向では、乃木希典をモデルに特定する必要はないという説が有力であり、私も当初はその線で攻めていたのですが。 どうも、乃木希典についての最低限の予備知識がないと、この作品は読めないのではないかという気がしてきました。特に下…

桃川若燕『乃木大将陣中珍談』(一九一二(大正元)年)

奥野久美子氏の論文によって、芥川龍之介「将軍」の材料とされている講談本。このたび完読しました。 白襷隊(決死隊)中である聯隊がパン聯隊と呼ばれていた話、二十八珊砲の音に驚く話、乃木が捕虜を露探(スパイ)と見なして斬らせる話、余興のピストル強…

「将軍」再考

今年中にどうにかもう一本は論文を書きたい。そうは思うものの新しい材料が見つからない。 で、今の問題意識(チキンホークとか近代的自我とか)から「将軍」を読み返してみたのですが。 芥川龍之介はチキンホークではないかわり、確立した近代的自我の持ち…

一九六九年から見た『経国美談』

岩波文庫版『経国美談 下』一九六九(昭和四四)年刊。編者小林智賀平によるまえがきより。 ※ 『経国美談』上篇の復刻版を出し、売行も順調と聞いて、生みの親である筆者も喜こばしい。 懸念していた片仮名交り文も、それ程読み辛くなく、却つて現代と違った…

近代的自我なんて古い?

このポストモダンの御時世に、近代的自我の問題なんて、いかにも時代遅れと思われるかもですが。 近代的自我の問題とは、昭和の一部批評家が矮小化したような、日本文学が西洋文学の水準に追いついているか、といった問題ではないのです。戦争や差別に直面し…

綾目広治「〈近代化〉言説の再考」(『日本文学』二〇一八年一一月号)

特集・「近代化」言説の光と影のあわい、巻頭論文。 問題意識は共有していることを確認した上で、感想めいたことを書かせていただきます。 決して、自分の論文がボツになったひがみとか、そういうのではありません。 鷗外の「舞姫」、田山花袋の『田舎教師』…

本日不調

ブログはお休みします。

夏目漱石「従軍行」雑感

国民的作家と呼ばれる夏目漱石が、「僕の従軍行などはうまいものだ」と自賛した、新体詩「従軍行」を岩波版全集より、七回に分けて転載しました。私は今でも漱石がすぐれた小説家であることは否定しませんが、彼が平和主義者であるとか、天皇制への批判者で…

夏目漱石「従軍行」 七/七

※ 七 戦やまん、吾武揚らん、 傲る吾讐、茲に亡びん。 東海日出で、高く昇らん、 天下明か、春風吹かん。 瑞穂の国に、瑞穂の国を、 守る神あり、八百万神。 ※

夏目漱石「従軍行」 六/七

※ 六 見よ兵(つわもの)等、われの心は、 猛き心ぞ、蹄(ひづめ)を薙ぎて。 聞けや殿原、これの命(いのち)は、 棄てぬ命ぞ、弾丸(たま)を潜りて。 天上天下、敵あらばあれ、 敵ある方に、向ふ武士(もののふ)。 ※

夏目漱石「従軍行」 五/七

※ 五 殷たる砲声、神代に響きて、 万古の雪を、今捲き落す。 鬼とも見えて、焔吐くべく、 剣(つるぎ)に倚りて、眥(まなじり)裂けば、 胡山のふゞき、黒き方より、 鉄騎十万、奔として来る。 ※

夏目漱石「従軍行」 四/七

※ 四 空を拍つ浪、浪消す烟、 腥さき世に、あるは幻影(まぼろし)。 さと閃くは、罪の稲妻、 暗く揺くは、呪いの信旗。 深し死の影、我を包みて、 寒し血の雨、我に濺ぐ。 ※

夏目漱石「従軍行」 三/七

※ 三 天に誓へば、岩をも透す、 聞くや三尺、鞘走る音。 寒光熱して、吹くは碧血、 骨を掠めて、戛として鳴る。 折れぬ此太刀、讐を斬る太刀、 のり飲む太刀か、血に渇く太刀。 ※

夏目漱石「従軍行」 二/七

※ 二 天子の命ぞ、吾讐撃つは、 臣子の分ぞ、遠く赴く。 百里を行けど、敢て帰らず、 千里二千里、勝つことを期す。 粲たる七斗は、御空のあなた、 傲る吾讐、北方にあり。 ※

夏目漱石「従軍行」(一九〇四(明治三七)年) 一/七

※ 従軍行 一 吾に讐あり、艨艟吼ゆる、 讐はゆるすな、男児の意気。 吾に讐あり、貔貅群がる、 讐は逃すな、勇士の胆。 色は濃き血か、扶桑の旗は、 讐を照さず、殺気こめて。 ※ 初出『帝国文学』第十巻第五(明治三十七年五月十日発行) 引用は岩波書店『漱…

チキンホーク列伝3 柳田国男

戦争に駆り出されたくなかったら、愛国者のふりをするに限る。そういう精神構造の話です。 ※ そのうち日露戦争になり、いつ召集されるかも知れないというので、戦争に関係のある仕事をしている方がよかろうということになり、捕獲審検所に出ることになった(…

チキンホーク列伝2 夏目漱石

自らは徴兵を逃れていながら、他者に対して「戦争に行け」と命ずる者たち、それがチキンホークの定義です。博士論文第八章より再掲。 ※ 太陽にある大塚夫人の戦争の新体詩を見よ、無学の老卒が一杯機嫌で作れる阿呆陀羅経の如し女のくせによせばいゝのに、そ…

ムフから見たランシエール

昨日は休んでしまいました。ムフ祭りを開催したのはよかったのですが、旅の疲れがどっと出まして。 ランシエールとの合意点について、ムフは以下のように述べています。 ※ いまや支配的な、合意を至上とする政治は、たとえいろいろな場所でいやというほど聞…

チキンホーク列伝

自らは徴兵逃れをしていながら、自分が安全になった後年に好戦主義者となった実例を三名。 博士論文第七章より転載。 ※ ヒトラーは申告、登録しなかっただけでなく、一九一〇年も一一年も一二年も検査をうけなかった(略)彼は二重の罪に問われることになっ…

チキンホークの典型、西部邁『戦争論』

西部邁『戦争論―暴力と道徳のあいだ』(ハルキ文庫 二〇〇二)という本は、メインタイトルよりもサブタイトルにひかれるものを感じてずっと前に購入したのですが、満足のいくものではありませんでした。 戦略論を欠いた「日本人が、総体として、戦略にかんし…