奥野久美子氏の論文によって、芥川龍之介「将軍」の材料とされている講談本。このたび完読しました。
白襷隊(決死隊)中である聯隊がパン聯隊と呼ばれていた話、二十八珊砲の音に驚く話、乃木が捕虜を露探(スパイ)と見なして斬らせる話、余興のピストル強盗劇に乃木が感激する話など、「将軍」で読んだ挿話が出るわ出るわです。
講談といっても聞き書きではなく、桃川若燕こと中島留五郎氏の兵士としての命がけの実体験です。
講談師らしくユーモラスに綴られてはいますが、生々しさは「将軍」よりはるかに上です。
これと比べると、「将軍」は借り物の戦争談に西洋文化人の名前を飾り付けてもったいぶっただけ、という印象を受けます。芥川の芸術家としての良心を問いたくなるところです。スタンダアルやユウゴオは高級芸術だけど、講談は低級芸術だから無断で借用してもいい、とでも思っていたのでしょうか。
「将軍」が論文を書くに値する作品なのか(そもそも「作品」なのか?)頼りなくなってきました。唯一芥川オリジナルの「四 父と子と」の章に賭けるしかないようです。