国民的作家と呼ばれる夏目漱石が、「僕の従軍行などはうまいものだ」と自賛した、新体詩「従軍行」を岩波版全集より、七回に分けて転載しました。私は今でも漱石がすぐれた小説家であることは否定しませんが、彼が平和主義者であるとか、天皇制への批判者であるという説を否定する論拠として、この詩を提示します。
むずかしい漢語が多用されていますが、要は他人に「天皇陛下のために戦え」と命令するだけの空疎な詩です。
「われの心は、猛き心ぞ」なんて詩句もありますが、漱石が戸籍を北海道に移して徴兵を忌避したのは、自他ともに認める事実です。
漱石一人を責めてもしかたがない、という反論もあるかもしれません。たしかに本当に悪いのは戦争という現実そのものですが、上記のような心性が、現実を悪化させる方向に向かわせているのも確かです。