核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 『日の名残り』(中公文庫 1994) その2

 このたび再読して、やっぱり英国執事スティーブンスは無理してアメリカンなご主人様に合わせるよりも、引退して「真・日の名残り」を楽しんだ方がいいのでは、と思ったのですが。
 貯えが予想外に少ないのです。

   ※
 たとえば、旅の費用です。「ガソリン代はぼくがもつよ」というファラディ様の気前よさにおすがりするとしても、宿泊費、食事代、路上でのおやつ代などで、旅行全体の費用は思いがけない額にのぼるかもしれません。(17ページ)

 貯金をにらみながらあれこれ考えたすえ、結局、予想されるすべての費用を支払っても、新しい服の一着くらいなんとか捻出できそうだ、との結論に達しました。(18ページ)
   ※

 ……たかだか六日分の旅費+服一着分の貯金しかないようです。スティーブンスは少なくとも三十年前から名家ダーリントン家に仕えており、個人的なぜいたくをするような性格でもないのですが、給金はどこに消えたのでしょう。世界恐慌で銀行がつぶれたとか?
 悠々自適の老後をすごすのは無理なようです。架空の人物の他人事とはいえ気になります。
 あと四日ほど『日の名残り』につきあって、「将軍」論は来月から、ということになりそうです。