核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

#小説

『日の出島』「新高の巻」再読計画

以前、村井弦斎の大長編『日の出島』を完読する企画を立てたのですが、「新高の巻」だけは適当に読み飛ばしてしまいました。 新たに植民地となった台湾を、ヒロインの雲岳女史ら一行が探検する話で、その差別的な描写や帝国主義的な雰囲気に耐えられなかった…

長野隆太郎(晴浜)「敗将」(予告)

日露戦争期の反戦小説らしいのですが、長野晴浜でも長野隆太郎でも敗将でも検索で出てきません。 国会図書館であれこれ検索してみようと思います。 日露戦争時に日本軍があからさまに敗れた局面はないはずなので、ロシア側からの視点でしょうか。 2020年…

カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 『日の名残り』(中公文庫 1994) その2

このたび再読して、やっぱり英国執事スティーブンスは無理してアメリカンなご主人様に合わせるよりも、引退して「真・日の名残り」を楽しんだ方がいいのでは、と思ったのですが。 貯えが予想外に少ないのです。 ※ たとえば、旅の費用です。「ガソリン代はぼ…

夏目漱石『彼岸過迄』の電話使用法

この作品は学生時代に読んでいたはずなのですが、昨日ある論文を読んではじめて気づきました。 主要人物の一人須永が、従妹の千代子に「いっしょに」電話をかけてくれと頼まれる場面。青空文庫より。 ※ 僕にはいっしょにかけるという意味が呑み込めなかった…

『アンソロジー・プロレタリア文学〈3〉戦争―逆らう皇軍兵士』 2015/6 (予定)

気になってはいたのですが未読。いずれ紹介するつもりです。

カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 『日の名残り』(中公文庫 1994)

すでに各方面(作者含む)で論じられた作品でもあり、あらすじを三行でまとめるにとどめます。 私(スティーブンス)は親の代からダーリントン家に仕えた執事。ダーリントン卿が対独協力のかどで第二次大戦後没落した後は、アメリカ人のファラディ様に仕える…

ひとまず脱稿

約一年かかりました。それに見合った出来かどうか。

空中征服論やや進捗

まだ完成には遠いですが、心覚えとして書いておきます。 非暴力的抵抗に内在する暴力性とか、そのへんのことを考えています。

村井弦斎「軟骨議員」(1892(明治25)年)

明治10~20年代にかけて多く書かれた「政治小説」というジャンルの一作品。村井弦斎の「軟骨議員」を紹介します。 主人公は青柳柳之助という国会議員。悪人ではないものの名前通りに気が弱く、アイスクリームの襲来におびえています(食品ではなく、氷菓…

村井弦斎「軟骨議員」(予告)

単行本『松が浦島』に、政治小説「軟骨議員」が収録されていると、『古書の森』の過去ログで知りました。 汚職の限りを尽くした悪徳議員たちが、最終回で政権を民党に奪われて没落するという、打ち切りのような終わり方の小説です。紹介する価値があるかは不…

尾崎行雄『新日本』(1887)

「国民皆壮武なるに非ずんば究極今の争奪世界に処して、国家の体面を全ふする能はざる也」。 大体、そのあたりが主題です。個人レベルでの名誉をかけた決闘場面にしても、清国への戦争も視野にいれた強硬策にしても、主人公たち(少女一名含む)の行動原理は…

村井弦斎『槍一筋』(1900)

「コレ菊姫、何故あつて此店の品物は一つも売れぬのであらう」 明治初年、士族の商法を題材とした中編です。 題名通りの槍一筋、三千石の旗本とその姫君が骨董屋を開くものの、羽織ばかまで客どもをどなりつけるような接客ぶりでさっぱり売れず、商人の息子…

長山靖生『日本SF精神史 幕末・明治から戦後まで』での『空中征服』評

※ 賀川豊彦『空中征服』(改造社 大正十一)もまた、この時期を代表する重要な未来小説だ。 (略。あらすじ紹介の後) 『空中征服』で賀川が取り上げた公害や階級格差といった社会問題は、実際に彼が取り組んでいたものだった。キリスト教徒であった彼は、社…

Ciniiで「空中征服」を検索したら

Ciniiで今月号の雑誌が出るというのも珍しい話です。幸先よさそうです。 ※ 近代日本奇想小説史 大正・昭和篇(第20回)空中征服から豪華連作小説まで 横田 順彌 SFマガジン 56(3), 316-329, 2015-04 日本大衆文学のSF的展開--賀川豊彦「空中征服」の一考察 (大…

賀川豊彦『空中征服』 より 水力発電

煙害撲滅をめざす賀川市長への、当然といえば当然の反論。 ※ 「おい、賀川、貴様は大阪市の煙筒から煙が少しも出ないようにすると言うじゃないか、いったいそんなことが出来ることか、出来ないことか、やってみるがよい! 煙が出なければどうして機械を回す…

賀川豊彦『空中征服』より 蟹の無傷害主義

人間社会に倦み、川底の自然世界に隠遁した賀川豊彦市長。しかしそこも、党派や闘争と無縁の地ではありませんでした。鋏と甲羅で武装した恐ろし気な蟹から、意外にも聞かされる軍備縮小論。 ※ 蟹は涙を流して、自己の不運を嘆いた。蟹の虜となりながら、蟹の…

賀川豊彦『空中征服』より 光線列車

今までマルクス批判の箇所ばかり引用してしまいましたが、やぼな話ばかりではなく、想像力の飛躍に満ちた場面も『空中征服』には多々あります。その一か所、火星への移住場面を。 ※ 霊の賀川市長はすべての人々に布告した。 「空中村の人々はすべて即刻火星…

賀川豊彦『空中征服』を三行で要約すると

大阪市の市長に就任した「賀川豊彦」氏は、大気汚染の問題を電力化等の政策で解決しようと試みるがことごとく失敗する。新発明の気体力学による空中住宅・空中田園への移住計画はうまく行きかけたが、軍による空中村砲撃によってまたも失敗する。「魂の(あ…

社会主義ーソビエト権力=?

レーニンは「共産主義とは、ソビエト権力プラス全土の電化である」という言を残しています。 そういう式でいうと、「『空中征服』のテーマは、社会主義マイナスソビエト権力である」と、とりあえずは言えるでしょう。 ただ、オール電化(死語だな)の未来を…

『空中征服』中のマルクス主義への疑問

「マルクスを尊ばず」の一例として。 ※ 何かもう少し強い真理の世界に掘り下げねばならぬと、彼は考えた。 すべての社会運動は果して何の上に立っているか? マルクス社会主義者は「唯物的生産の上に」と言うであろう。しかし、その物質的生産は何のためであ…

「空中征服」中の、太閤と大塩のレニン(レーニン)評

賀川豊彦の空想小説『空中征服』の一場面で、大気汚染に苦しむ大阪を救うため復活した太閤と大塩平八郎。幕府への反逆者だった大塩が「ようレニン!」と冷やかされるのはまだわかりますが、意外にも太閤も、レニンの電化政策には好意的です。青空文庫より。 …

賀川豊彦「空中征服」の結末中の一節

1922(大正11)年。つまり軍備縮小同志会での活動と同時期に書かれた、星一の『三十年後』にも似た未来空想SFです。 その結末、私設裁判で処刑されつつある賀川豊彦(主人公)に、魂の賀川豊彦が述べる弔辞。 ※ マルクスを尊ばず、レニンを敬せず、…

心脳問題と星一『三十年後』

『三十年後』についてはこのブログでもあれこれ書いてきたのですが、1エピソードにすぎない軍備廃絶論にこだわるあまり、全体像をつかみそこねていた気がします。 「心と脳」といった観点から、もう少しまとまった論文を書きたくなってきたのですが…まった…

井原西鶴「筋目をつくり髭の男」(『武家義理物語』巻六 1688)

岐阜中納言秀信公(織田信長の嫡孫、三法師の成人後の名)が出てくるので、1590年代の設定のようです。 ある場で一休の名僧ぶりが話題になり、ついでに蜷川新右衛門は文武の人との評判も出て。ある浪人が自分こそ新右衛門の孫の蜷川新九郎と名乗り出まし…

『指輪物語』のラスボスは

冥王サウロンではなくゴラム(ゴクリ)だと、つねづね思います。 かれこそ真のロードオブザリング。 事大主義こそ平和の敵。 …思えばサウロンも、『シルマリルの物語』時代はけっこう卑屈な性格だったっけ。

アンジェイ・チェホフスキ「絶対兵器」

草柳種雄訳。早川書房『世界のSF(短編集) ソ連・東欧篇』(1971)収録。 原子爆弾や大陸間弾道ロケットは、戦争を実現するよりもむしろ「予防」するものであり、それらの開発者は仮面をつけた平和主義者ではないかという議論の後に。 絶対兵器の実用…

星新一「ミラー・ボール」(『つぎはぎプラネット』(新潮文庫 2013)収録)

生前単行本未収録作品。「劇場」4号(1958年8月)。 「セキストラ」に似た、あるクイズ企画をめぐる手紙・投書だけで綴られる書簡体小説。 投書者の一人に「市川市 村山放斎」という人名がありました。偶然か。俳人の尾崎放哉から連想した名前かもしれ…

星新一『つぎはぎプラネット』(新潮文庫 2013)完読。

ようやく最後のページの「星新一ショートショート全作品読破認定証」にたどりつきました。感無量です。 最初のうちこそアイディアの古めかしさや、結末の甘さを感じましたが(なにしろ生前の著者が単行本に入れなかった作品群なので)、読んでいるうちにそん…

星新一「ある未来の生活 すばらしき三十年後」(1967)

『つぎはぎプラネット』(新潮文庫 2013 329~336ページ)収録。初出は「英語フレンド 2年」1967年4月創刊号とのこと(いずれ探します)。 高層アパートの四十階に住むN氏(「エヌ氏」表記ではなく)の生活を通して未来の社会を描いていま…

星新一『つぎはぎプラネット』(予定)

生前未収録の作品集。買ってなかったのですが、「すばらしき三十年後」という題の作品があることを知り、興味がわいてきました。後ほど報告します。星一『三十年後』からの影響関係はあるかどうか。