核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

#小説

オルダス・ハックスリイ著 松村達男訳『すばらしい新世界』(原著1932)

『世界SF全集 10』(早川書房 1968)より。オーウェル『1984年』と同時収録。 どうしてそう、極端から極端に走るかなあ、です。すべてが薬品で統制される管理社会と、いっさいの科学を認めない原始社会じゃ、どっちも嫌に決まってるでしょうに。…

エドワード・ベラミー著  平井廣五郎訳『百年後の社会』(1903)

日露戦争の一年前に翻訳された、社会主義ユートピア小説"Looking Backward"です。 当時は割とあることですが、主人公ジュリアン・ウェストが「西重連」さんになるなど、人物名を強引に変えてます。でも地名はボストンのまま。 西暦1887年から2000年…

夏目漱石 「夢十夜」 より 「第十夜」

いずれ私が世界ブタ文学全集を編む日が来たら、欠くことが出来ない作品です。 登場豚物の多さでは他の追随を許しません。

上田秋成『春雨物語』より「海賊」

江戸時代の短編小説集『春雨物語』(1808)中の、文学的海賊の物語。 『土佐日記』で知られる紀貫之(きのつらゆき)が都に帰る途中、海賊と称する男が現れます。何がめあてかと思ったら、『古今集』の編集ぶりにさんざんけちをつけただけで帰っていきま…

江見水蔭『空中飛行器』(1902(明治35))

ライト兄弟の有人飛行(1903)より一年前に、日本人兄弟による飛行器の発明を描いた小説です。 (2014・10・17追記 初出は明治32(1899)年の新春と、『自己中心 明治文壇史』にあったのを、以前自分で書き写しておいて忘れていました。ラ…

『三十年後』と『われら』

あまり似ているとは思えない二作品ですが、共通点をあげるとすれば、単独の「われ」であることからの逃走、といったところでしょうか。 レーニン政権下のソ連をモデルにした『われら』の未来社会では、個人が「われ」としての意識を持つことは否定され、男女…

ザミャーチン『われら』(川端香男里訳 講談社 1970 原著1924)

ああ、あのマスクして上半分だけメイクする人。それざわちん。ザミャーチン(1884~1937)の『われら』は、レーニン政権下ソ連の独裁体制を風刺したSFです。 ゴドワロワ氏の論文に、『三十年後』との比較でこの作品がとりあげられていたので、つい…

ヤン・ヴァイス『迷宮一〇〇〇』(創元推理文庫 1987 原著1929)

第一次世界大戦後に書かれた、薬と星をめぐる夢の物語。 空気より軽く、鉄よりも硬い元素ソリウムが発見された近未来。謎の人物オヒスファー・ミューラーはその新技術で医薬品と宇宙開発のコンツェルンを設立し、千階建ての巨大ビルディングに君臨する支配者…

江見水蔭「探検小説 海底の新戦場」(『少年倶楽部』1918(大正7)年1月 世界探検号)

『三十年後』の直前に江見水蔭が発表した、『少年倶楽部』の探検小説。 ※ 驚いたのは主人である。 『誰だツ。如何して君は入つて来たかツ』 面会謝絶で研究室に立籠もつて、家族の者にも滅多に入るを許さないで居る、其所へ怪人が突然入来つたからである。 …

星一「三十年後に題す」

『三十年後』の序文に、後藤新平が星製薬を訪ねた際の挿話が記されています。 後藤が店員に「馬鹿につける薬はあるか」と聞いたところ、「目下研究中でございます」と返され、星製薬の面目を施したと。星新一『明治の人物誌』後藤新平編にも引用されています…

気を取り直して

思い返してみると、『空中の人』もそんなに悪くはないような気がしてきました。 悪いのは江見水蔭ではなく、私の焦りのほうです。もうちょい落ち着いたら更新を再開してみます。

江見水蔭『空中花 終編』(1918)

だまされた。めっちゃ腹立つ。まだイライラする。 正直、もう何もかもどうでもよくなった。

江見水蔭『空中花 前編』(1918)

トンネルはないけど国境は雪国だった。越後と信濃の境の駅を前にして、大雪のために立ち往生してしまった汽車。そこに乗り合わせた美少女とその父、貴婦人と書生、いわくありげな怪老賊。汽車を捨てて徒歩で駅を目指す、彼らの運命の交差が始まる…。 いかに…

星一はラッセルを読んでいた

星新一のエッセイにもあったのですが、星一は『官吏学』全4巻という、膨大な分量の学術書を書き残していました。 ひとまずその『摘要』だけでも思って読んでみたら、さっそくラッセルの名が出てきました。平和主義がらみではありませんが、後々役に立ちそう…

いきはりの研究―江見水蔭の場合

江見水蔭を読みだしたのは、『三十年後』の内容に彼がどの程度関わっているかを知りたかったからでした。そして見つかったのが、1911年の帰省小説「備前岡山」の一節。 ※ 「戟(ほこ)取りて国に尽すの人よ。其数十万か。筆を提(ひつさ)げて国威を輝か…

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』 後半六篇あらすじ

ネタバレフルバ―スト。 ・「水錆」(1915(大正4年)11月) 鮎の名所入間川で、裸体になって飛び込んだら、なじみの酌婦が泳いで来て…といった青年時代の甘い追憶から始まる、半生の恋愛史をつづった自然主義的作品。第一次大戦下の発表だが言及はな…

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』 前半六篇あらすじ

ネタバレ全開でいきます。 ・「夏の館」(1891(明治24)年7月発表) 好色な大名の手先、おちゃちゃら茶良助に娘を奪われた盲人の悲哀の物語。西鶴調で文章が読みづらい。 ・「焼山越」(1893(明治26)年6月) 実直な炭焼き人が、炭鉱発見で…

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』(1930)

今から7~8年前、名古屋古書会館の100円コーナーで買った円本です。 前半分だけ読んで放置してたのですが、このたび江見水蔭編にも手を出してみることにしました。 箱つき月報つき。広告欄には『モダン東京・円舞曲』なんかもあります。『浅草紅団』の…

星新一『明治の人物誌』(新潮文庫 1998)より 『三十年後』関係

「後藤新平」の章より。『三十年後』に後藤の案が入っている説。 ※ そのころ(引用者注 1918(大正7)年4月、後藤夫人の死去した時)、私の父は『三十年後』という未来小説を出版した。薬の進歩によって社会が向上するといった内容で、会社のPRにも…

星一『三十年後』 その13(最終回) 星の世界

『三十年後』のあらすじ紹介は今回で終わりです。 不満分子の内乱を犠牲者なしで鎮定した名声により、嶋浦太郎は世界大学校の校長に就任します。独(ドイツ)・墺(オーストリア)・土(トルコ)・勃(ブルガリア)つまり旧同盟国側の留学生は、世界大戦から…

江見水蔭『三千年前』(1917(大正6)年)

『三十年後』とまぎらわしい題ですが、刊行はその一年前。 多摩川沿いの貝塚を探索していた「文壇の落伍者」を自任する小説家が、先住民族コロボックルの興亡に思いをはせた、「石器時代の科学的小説」です。 小金井博士(小金井良精。後に星一の舅、星新一…

エカテリナ ゴドワロワ「星一『三十年後』論」(予告)

さっそく先行研究が見つかりました。書誌情報は以下に。 ※ エカテリナ ゴドワロワ「星一『三十年後』論--優生思想家が夢見た<理想的>な社会像」 (日本近代文学会北海道支部会報 (11), 57-31, 2008-05) ※ 私の問題意識とはかぶらないようですが、必読です。…

星一『三十年後』 その12 英雄崇拝熱という病

大正の未来小説『三十年後』もあと少し。引用を続けてみます。 健康や富が平均した大正37年でも、科学の進歩を悪用し、他人になりすまして名誉を盗む詐欺師は根絶できていませんでした。九段坂に出現した偽嶋浦のように。 ※ 『好意に解すれば無邪気なる一…

星一『三十年後』 その11 九段坂の上 自分に似過ぎた人

ユートピア未来小説なんてもんはえてして、作者の都合のいい願望を並べたてただけの退屈な話になりがちでして。今読んでる近デジ版『三十年後』も中だるみ気味になり、「ウソウソ」「バカヤロ」といった落書きが目につきます。気持ちはわかるけど本に落書き…

星一『三十年後』 その10 念写文学の行く末

念写術が普及し、誰でも気軽に小説を書ける大正37年の未来。でも、文士の貧乏さ加減は大正初年と大差ないようです。 ※ 『薬の力で、天才は至る処に出来まして、盛んに銘々書きますから昔の様に、紅葉、露伴、或は漱石、鷗外、又は坪内先生と云つた様な大家…

星一『三十年後』 その9 大正37年の上野

『日本略史』や『聖勅』あたりの、昭和戦前戦中の星一の著述を読んでしまうと、正直、熱がかなり冷めてくるのを感じます。が、ここまで『三十年後』を読みかけてやめるのもすっきりしないし、あれはあれ、これはこれということで。 嶋浦翁と案内の三浦一家を…

星一『日本略史:「お母さん」の創った国日本』(1937) より 三種の神器とは

『三十年後』もまだ読みかけなので、この本については今回は序文のみとします。 (2014・7・1追記 「序文」ではなく「神代」の章でした) 星新一のエッセイ(『きまぐれ星のメモ』?未確認)で知ったのですが、星一は独自の哲学・神話観を持っていまし…

星一『三十年後』 その8 日本式飛行機

三十年ぶりの東京を、飛行機で案内される嶋浦翁。『大正初年には墜落又墜落で、空中の犠牲者をどの位出したか知れないもんだよ』とぶるぶるします。 少々オーバーですが、現実の1913(大正2)年には2件の墜落で3人の犠牲者が出ており、飛行機は安全な…

北尾亀男『空翔ける人』―其の六十六―(『都新聞』1922(大正11)年1月6日掲載)

先日のある学会で入手した、配布資料に一回分だけ載っていた小説です。 菅沼と収三の乗った飛行機が墜落し、菅沼は両足挫折、収三は肺臓破裂。節子が駆けつけた時には収三は既に手遅れでした。 この作品の4年前(1918年)に書かれた『三十年後』ではし…

星一『三十年後』 その3 レーニン観

星新一のお父上の手になる、大正三十七年の未来像を描いた空想小説。 タイトルの通り、実際に書かれたのは大正七(1918)年、つまりロシア革命の翌年なのですが、その失敗を見越した箇所がありました。 ※ (三十年前の大正初年には) 人間の堕落は其極端…