核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

星一『三十年後』 その12 英雄崇拝熱という病

 大正の未来小説『三十年後』もあと少し。引用を続けてみます。
 健康や富が平均した大正37年でも、科学の進歩を悪用し、他人になりすまして名誉を盗む詐欺師は根絶できていませんでした。九段坂に出現した偽嶋浦のように。

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 『好意に解すれば無邪気なる一種の英雄崇拝熱です(略)この思想は併(しか)し昔からも御座いましたでは有りませんか。秀吉を気取つたり、家康を真似たり、或は東洋のナポレオンを以て任じたり、西郷だつて各地の西郷が出たり、面白いのは、和製のルーズベルトまで出来たでは有りませんか。それです。昔は内面的に英雄を気取つたのですが、現在では外面の仮装を以て満足して居ります』
 (近代デジタルライブラリー 星一『三十年後』 98/138)
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 和製ルーズベルトというのは後藤新平のあだ名だそうですが(フランクリンではなくセオドアです)、そういう小ネタはさておき。
 作品中ではそうした欲望は精神異常とみなされ、密告や強制注射の対象になるという設定ですが、このあたりは賛成できません。真似したがる欲望というのは人間の根幹にかかわる要素であって、否定ではなく分析と善用をめざすべきものだと思うのです。製薬業者ではなく文学研究者の身としては。『三十年後』で論文を書くとしたら、このあたりの話になりそうです。
 迂遠な話題と思われるかも知れませんが…。