核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

星一『三十年後』

心脳問題と星一『三十年後』

『三十年後』についてはこのブログでもあれこれ書いてきたのですが、1エピソードにすぎない軍備廃絶論にこだわるあまり、全体像をつかみそこねていた気がします。 「心と脳」といった観点から、もう少しまとまった論文を書きたくなってきたのですが…まった…

星新一「犯人はだれ?」(『四年の学習』1960年12月号)

『つぎはぎプラネット』(新潮文庫 2013)収録作品。 小学生向けの科学クイズ。こういう仕事もしてたとは。 三問目の解答の前に、「答えを読む前にわかったら、みなさんは博士ですよ」とありました。わかりませんでした。私は博士じゃなかったようです。…

星新一「ミラー・ボール」(『つぎはぎプラネット』(新潮文庫 2013)収録)

生前単行本未収録作品。「劇場」4号(1958年8月)。 「セキストラ」に似た、あるクイズ企画をめぐる手紙・投書だけで綴られる書簡体小説。 投書者の一人に「市川市 村山放斎」という人名がありました。偶然か。俳人の尾崎放哉から連想した名前かもしれ…

星新一『つぎはぎプラネット』(新潮文庫 2013)完読。

ようやく最後のページの「星新一ショートショート全作品読破認定証」にたどりつきました。感無量です。 最初のうちこそアイディアの古めかしさや、結末の甘さを感じましたが(なにしろ生前の著者が単行本に入れなかった作品群なので)、読んでいるうちにそん…

星新一「ある未来の生活 すばらしき三十年後」(1967)

『つぎはぎプラネット』(新潮文庫 2013 329~336ページ)収録。初出は「英語フレンド 2年」1967年4月創刊号とのこと(いずれ探します)。 高層アパートの四十階に住むN氏(「エヌ氏」表記ではなく)の生活を通して未来の社会を描いていま…

星新一『つぎはぎプラネット』(予定)

生前未収録の作品集。買ってなかったのですが、「すばらしき三十年後」という題の作品があることを知り、興味がわいてきました。後ほど報告します。星一『三十年後』からの影響関係はあるかどうか。

神保充弘「戦前期星製薬における生成期マーケティング」

『同志社商学』(2010年3月 第61巻 第6号)。 厖大なデータを基に、戦前における「マーケティング」の一例としての星製薬を追究した論文です。 (予定。厖大な情報量に圧倒されています。まとめにもう少しかかりそうです)

神保充弘「わが国医薬品業界における先駆的販売組織--星製薬の事例を中心として」

ああっ、もっと早くこの論文に出会っていれば! 『経営史学』2008年9月。ネット上で読めます。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/bhsj/43/2/43_2_2_3/_pdf 『三十年後』についてはふれられていませんでしたが、「売薬の製造はもとより、販売につい…

星一『官吏学 第四巻』における優種学

現代ではまとめて「優生学」と訳されているEugenics。 星一はその創始者ゴルトンやダーベンポートにさかのぼり、出生前の配偶者選抜を重視する優種学(Eugenics)と、出生後の環境を重視する優境学(Euthenics)を区別した上で。 そのどちらをもってしても、…

星一『官吏学 第四巻』におけるマルクス論

今さらですが、星一のマルクス論。 自分は「マルクス説の危機は社会科学全体の危機」などとは思わないし、マルクスの唯物史観に雷同するものでもないが、衣食住の物的生活に限れば唯物史観にも一面の真理はあるという趣旨でした(近代デジタルライブラリー …

星新一『明治・父・アメリカ』より 『星とフォード』関係情報

星新一による父、星一の前半生を描いた伝記より。 ※ 父の若かったころのことを書いてみようと思いついた。父は生前に思い出を三回ひとに話し、いずれも印刷物となって私のところに残っている。 まず明治時代に杉山茂丸(しげまる)氏に対してである。それは…

星一『聖勅 大東亜戦争』(1942)

星一研究を完成させるには、どうしても避けて通れない文献です。できれば避けて通りたかった。 ※ 日本は神国であつて、天佑の国であります。(略) 大東亜戦争は、考へれば考へる程、その規模の大なるには驚かざるを得ません。(略) 全地球の三分の一の大地…

其日庵(杉山茂丸)『百魔』(1926)

星一研究の一環ということで読んではみたのですが、すでに星新一の伝記で読んだ以上の情報は得られませんでした。どうも盛ってそうな文体といい、あまり好感は持てない著者です。星新一や夢野久作が語る杉山茂丸は魅力的だったのに。

星一とルカーチ

ほぼ同時期に、星一『官吏学』とルカーチ『歴史と階級意識』は書かれたわけですが。 その人間観は真逆です。特に自由意志をめぐっては。もちろん私は星一を支持します。

京谷大助『星とフォード』(1924)

『三十年後』論を終えるにあたってふと気になったのは、同作品ははたして星製薬の発展に貢献したのかという点。同社の1918(大正7)年前後の経営状態を捜してみてこの本にたどりつきました。検索時の書名は『星一とヘンリー・フオード』ですが、奥付に…

鬱要素が、足りない。

論文がいまだに完成してない唯一の理由です。

エドワード・ベラミー著  平井廣五郎訳『百年後の社会』(1903)

日露戦争の一年前に翻訳された、社会主義ユートピア小説"Looking Backward"です。 当時は割とあることですが、主人公ジュリアン・ウェストが「西重連」さんになるなど、人物名を強引に変えてます。でも地名はボストンのまま。 西暦1887年から2000年…

星一『官吏学』概観

ものすごい情報量の労作だし、当時の雑誌論文の水準をはるかに上回っていますけれど、ただ。 『官吏学』である必然性があったのでしょうか。特に三巻以降。

星一『官吏学 第三巻』における無政府主義批判

1922年といえばアナ・ボル論争の季節。彼ら主義者から見れば新興ブルジョワジーの一人であろう星一も、無政府主義(アナーキズム)および社会主義(ボルシェビズム)への反論に一章を割いています。 ※ (星一の主張してきた「統合」とは力の均衡であり、…

星一『官吏学 第四巻』 より 「うき事のなほ此上につもれかし」

もしかすると『三十年後』より面白いような気がする『官吏学』。特にこの四巻は『官吏学』という主題を離れ、かなり自由奔放に持論を語っています。 「うき事のなほ此上につもれかし限りある身の力試さん」 という歌を、少なくとも十数年前から座右の銘にし…

星一『官吏学 第三巻』における自由意志説

※ 人には自由意思あり環境に対し順応し衛禦(えいぎょ?)し改造すと雖、其自由たる相対的 Relative にして絶対的 Absolute にあらず、必ず統合を要すべき限界点あり、 (略) 要するに人類の自由意思とは自他の統合を得る方法を選ぶの自由を意味し、無制限…

星一『官吏学 第三巻』における国防論

国民皆兵主義と軍縮論という、かなり独特の組み合わせです。 欧州の大戦(第一次世界大戦)とは国力総体の対抗であり、軍国主義ドイツの敗因は軍備への偏重にあった、という分析のもとに、星一は以下の結論に達します。 ※ 故に余の意見は戦術其他特殊の研究…

星一『官吏学 第三巻』におけるW・ジェイムズの「道徳的代用価」と戦争中止論

1922(大正11)年刊行の、星一畢生の大著です。 当ブログがたびたび引用してきました、ウィリアム・ジェイムズの「戦争の道徳的等価物」論を、星一も引いていました。「軍備」の章より。 ※ ウイリアム・ジエームスは之に或る「道徳的代用価」を置き換へ…

江見水蔭『空中飛行器』(1902(明治35))

ライト兄弟の有人飛行(1903)より一年前に、日本人兄弟による飛行器の発明を描いた小説です。 (2014・10・17追記 初出は明治32(1899)年の新春と、『自己中心 明治文壇史』にあったのを、以前自分で書き写しておいて忘れていました。ラ…

そろそろまとめに

ゴドワロワ論文を読んだおかげで、『三十年後』という作品の論点がだいぶ明らかになったような気がします。 少なくとも、製薬会社の宣伝小説で片付けていいものではありません。薬がいかに進歩しようと、人間社会には解決できない問題が頑として存在する、と…

ゴドワロワ・エカテリナ「星一『三十年後』―優生思想家が夢見た〈理想的〉な社会像」 その2

すぐれた論文であることは認めた上で、一つだけ反論をさせていただきます。 星一の『三十年後』と、ザミャーチンの『われら』における管理社会への反乱を比較した箇所です。 ※ そしてその試みの結果もほぼ同様である。『三十年後』においては嶋浦の説得によ…

ゴドワロワ・エカテリナ「星一『三十年後』―優生思想家が夢見た〈理想的〉な社会像」 その1

『日本近代文学会 北海道支部会報』2008年5月号。 まずは章立てを紹介。 1、都市の成長に伴う社会問題の深刻化とその解決法としての「ユートピア」小説 2、日本の科学小説の系譜と『三十年後』の内容 3、製薬企業の振興と星一の製薬事業 4、都市中…

『実業界』(1918年7月号) より 「新刊紹介」『三十年後』

『三十年後』の同時代評がまた一つ出てきました。 ※ 一言にて尽せば近来の快著である、奇想天外一読三嘆を禁ずる能はざる面白い本である。文も歯切りがよく、構想も月並文士の思ひもよらぬところがあり、流行の科学(サイエンス)が加味されてゐるところに一…

『三十年後』と『われら』

あまり似ているとは思えない二作品ですが、共通点をあげるとすれば、単独の「われ」であることからの逃走、といったところでしょうか。 レーニン政権下のソ連をモデルにした『われら』の未来社会では、個人が「われ」としての意識を持つことは否定され、男女…

ザミャーチン『われら』(川端香男里訳 講談社 1970 原著1924)

ああ、あのマスクして上半分だけメイクする人。それざわちん。ザミャーチン(1884~1937)の『われら』は、レーニン政権下ソ連の独裁体制を風刺したSFです。 ゴドワロワ氏の論文に、『三十年後』との比較でこの作品がとりあげられていたので、つい…