核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

星一『三十年後』

江見水蔭『自己中心 明治文壇史』(1912)

まだ小ネタが残ってました。 江見水蔭『明治文壇史』の明治三十二年(1899)の項より。 ※ 新年からは『空中飛行器』といふ小説を掲載し始めた。飛行機を器と書くほど、其方の知識には幼稚であつたが、それでも其時代としては非常に珍しい題材として歓迎…

ヤン・ヴァイス『迷宮一〇〇〇』(創元推理文庫 1987 原著1929)

第一次世界大戦後に書かれた、薬と星をめぐる夢の物語。 空気より軽く、鉄よりも硬い元素ソリウムが発見された近未来。謎の人物オヒスファー・ミューラーはその新技術で医薬品と宇宙開発のコンツェルンを設立し、千階建ての巨大ビルディングに君臨する支配者…

後藤新平述『処世訓』(1912)より「世界平和」

以前にとりあげた資料とほぼ同趣旨なので、手短に。 後藤は「世界平和主義は世界の輿論である。人性の根本的傾向である」としつつも、非軍備的手段でそれが実現できるとするのは浅慮であるとし、ゲーテの言葉を引いて、「血液は一種の消毒薬」「鮮血なるもの…

中外商業新報社編『財界双六 戦線上の実業家』(1919)

『三十年後』刊行の翌年なので期待しましたが、同作品への言及はありませんでした。 ※ 星 一 君 (星製薬会社々長) (略。写真と略歴の後に) 資性快濶、万事平民主義を尚び、而も事業に対しては規律厳粛、寸毫の微と雖も苟もしない、勇気あり、胆力あり、…

第一次世界大戦期の新聞雑誌

まだ手をつけはじめた段階なので、とりあえずの印象ですが。 第二次大戦や日露戦争にくらべて、とにかく冷めた雰囲気です。 敵国ドイツの非人道性をあげつらった記事や広告は多いのですが、どうも危機感に乏しいようです。ほっておいても日英側が勝つという…

星新一「大正七年の「三十年後」」(『SFマガジン』1966(昭和41)年10月号) その2

小説『三十年後』について、星新一は「亡父の作品を解説するぐらい苦手なことはない」としつつも、いくつか感想を書いています。 ※ 小説の最初のほうに、東京湾の大築港のことが出てくる。これは後藤の構想で、(略。出資者安田善次郎の暗殺により)挫折に終…

「戦争は何時止むか」(『実業之日本』1917(大正6)年1月号)

欧州戦争(第一次世界大戦)の終結時期について、各界の識者へのインタビューを集めた特集記事です。 ※ □ 星製薬会社長 星 一 ■一ヶ年半。 欧州百年の平和を解決せん連合軍の意気込みと、同盟軍の情態とを見て更に一ヶ年半継続する 者と思ふ。 (54ページ…

横田順彌「明治時代は謎だらけ!星一と押川春浪」(『日本古書通信』1999(平成11)年3月号)

横田氏は押川春浪と星一の接点を追っておられ、もし江見ではなく押川が「三十年後」を文章化していたら、「もっと大ホラ話になったような気がする」そうです。私は村井弦斎に書いてほしかった。 また、横田氏が生前の星新一氏から聞いたところでは、江見水蔭…

星新一「ペンネーム」(『きまぐれ星のメモ』読売新聞社 1968 収録)

「八〇パーセントは本名」なペンネームの由来話です。 ※ 本名は星親一。私の父(引用者注 星一)は若い頃米国に留学し、各工場に安全第一の標語が記してあるのを知った。それにヒントを得て親切第一という語を考えつき、帰国してからの事業のモットーに使い…

星新一 「自動車」「おやじ」「超光速」((『きまぐれ星のメモ』読売新聞社 1968 収録)

長男の星新一による、星一にまつわる思い出三題。 ※ 私の父は大変に自動車が好きであった。明治四十年に製薬業をはじめてから、昭和二十六年に死ぬまで、自動車を愛用しつづけた。車のナンバーは三七であった。日本で三十七番目なのかどうかはわからないが、…

星新一「大正七年の「三十年後」」(『SFマガジン』1966(昭和41)年10月号) その1

『SFマガジン』に星一の「三十年後」が抄録された際の、星新一による解説です。 『週刊新潮』の掲示板で「三十年後」のありかを求めたものの見つからず、斎藤守弘氏がどこかの古本屋で探し出してくれたおかげで日の目を見たと冒頭にあります。 つまり、星…

星一『支那の歴史』(1938)

日中戦争期の星一による中国史。特に扇動的な内容ではなく、手堅く(無難に)まとまっています。 まっさきに春秋時代の記事を読んでみたのですが、向戌の弭兵(軍備廃絶)の会についての記述はありませんでした。 代わりにというか、戦国期の墨子についての…

江見水蔭「探検小説 海底の新戦場」(『少年倶楽部』1918(大正7)年1月 世界探検号)

『三十年後』の直前に江見水蔭が発表した、『少年倶楽部』の探検小説。 ※ 驚いたのは主人である。 『誰だツ。如何して君は入つて来たかツ』 面会謝絶で研究室に立籠もつて、家族の者にも滅多に入るを許さないで居る、其所へ怪人が突然入来つたからである。 …

星一『活動原理』(1926) より 「親切は世界の平和を作る」

大正末期~昭和初期の、星一の平和観を示す資料。 ※ 親切は世界の平和を作る 一 万国平和会議だの、国際連盟だのと騒いで居るが、其会議の精神の内に親切を欠いて居る、又は其連盟国の政府及人民に親切を欠きて居るなれば、其んな会は千百あるとも、又毎日会…

江見水蔭「太古の戦争」(『欧州戦争実記』1916年7月号)

『三十年後』の軍備廃絶論は星一の思想であって、江見水蔭のではなかった、そう裏づけてくれる資料です。 ※ 戦争は何(いつ)の世にも有る。適者生存の為には戦争は如何(どう)しても免れぬ。 (略。三千年前のアイヌまたはコロポックルが、強健な大和民族…

星一「三十年後に題す」

『三十年後』の序文に、後藤新平が星製薬を訪ねた際の挿話が記されています。 後藤が店員に「馬鹿につける薬はあるか」と聞いたところ、「目下研究中でございます」と返され、星製薬の面目を施したと。星新一『明治の人物誌』後藤新平編にも引用されています…

気を取り直して

思い返してみると、『空中の人』もそんなに悪くはないような気がしてきました。 悪いのは江見水蔭ではなく、私の焦りのほうです。もうちょい落ち着いたら更新を再開してみます。

江見水蔭『空中花 終編』(1918)

だまされた。めっちゃ腹立つ。まだイライラする。 正直、もう何もかもどうでもよくなった。

江見水蔭『空中花 前編』(1918)

トンネルはないけど国境は雪国だった。越後と信濃の境の駅を前にして、大雪のために立ち往生してしまった汽車。そこに乗り合わせた美少女とその父、貴婦人と書生、いわくありげな怪老賊。汽車を捨てて徒歩で駅を目指す、彼らの運命の交差が始まる…。 いかに…

星一はラッセルを読んでいた

星新一のエッセイにもあったのですが、星一は『官吏学』全4巻という、膨大な分量の学術書を書き残していました。 ひとまずその『摘要』だけでも思って読んでみたら、さっそくラッセルの名が出てきました。平和主義がらみではありませんが、後々役に立ちそう…

星一 述『自国を知れ 進歩と協力』(1933) より 「飛行機上より見て」

どうも昭和戦前期の星一には神がかり的なところがあって、この口述本も「生産の神国化 分配の神国化」とか大々的に謳っているわけですが、中にはさすがと思わされるところもあります。 ※ 八 飛行機上より見て 一私は地上に於て自己を発見した、飛行機に乗つ…

いきはりの研究―江見水蔭の場合

江見水蔭を読みだしたのは、『三十年後』の内容に彼がどの程度関わっているかを知りたかったからでした。そして見つかったのが、1911年の帰省小説「備前岡山」の一節。 ※ 「戟(ほこ)取りて国に尽すの人よ。其数十万か。筆を提(ひつさ)げて国威を輝か…

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』 後半六篇あらすじ

ネタバレフルバ―スト。 ・「水錆」(1915(大正4年)11月) 鮎の名所入間川で、裸体になって飛び込んだら、なじみの酌婦が泳いで来て…といった青年時代の甘い追憶から始まる、半生の恋愛史をつづった自然主義的作品。第一次大戦下の発表だが言及はな…

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』 前半六篇あらすじ

ネタバレ全開でいきます。 ・「夏の館」(1891(明治24)年7月発表) 好色な大名の手先、おちゃちゃら茶良助に娘を奪われた盲人の悲哀の物語。西鶴調で文章が読みづらい。 ・「焼山越」(1893(明治26)年6月) 実直な炭焼き人が、炭鉱発見で…

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』(1930)

今から7~8年前、名古屋古書会館の100円コーナーで買った円本です。 前半分だけ読んで放置してたのですが、このたび江見水蔭編にも手を出してみることにしました。 箱つき月報つき。広告欄には『モダン東京・円舞曲』なんかもあります。『浅草紅団』の…

後藤新平「文装的武備論」(後藤新平述『修養の力』1918(大正7)年)収録

『三十年後』には後藤新平のアイディアも入っているようですが(星新一『明治の人物誌』)、少なくとも、軍備廃絶論は違うようです。 『三十年後』の半年あまり後、1918年11月30日発行の後藤新平述『修養の力』に収録された、「文装的武備論」がその…

矢印の芯

今日のうちに、『三十年後』をもう一度読み返して、作品論の根幹部分をまとめておこうと思います。 江見水蔭や後藤新平関係の厖大な文献を漁るのはその後で。一応、軍備廃絶論はこの二人ではなく星一によるものだと、あたりをつけてはいます。

星新一『明治の人物誌』(新潮文庫 1998)より 『三十年後』関係

「後藤新平」の章より。『三十年後』に後藤の案が入っている説。 ※ そのころ(引用者注 1918(大正7)年4月、後藤夫人の死去した時)、私の父は『三十年後』という未来小説を出版した。薬の進歩によって社会が向上するといった内容で、会社のPRにも…

星新一という作家の魅力は何か。 奇抜なアイディア、完全なプロット、意外な結末。 それらに匹敵する要素があの独特の文章です。わけても、あの「や」という感動詞。 「や、さては強盗か」 「や、強盗かと思ったらロボットだったのか」 どんなにぶっとんだ展…

星一『三十年後』 その13(最終回) 星の世界

『三十年後』のあらすじ紹介は今回で終わりです。 不満分子の内乱を犠牲者なしで鎮定した名声により、嶋浦太郎は世界大学校の校長に就任します。独(ドイツ)・墺(オーストリア)・土(トルコ)・勃(ブルガリア)つまり旧同盟国側の留学生は、世界大戦から…