核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

江見水蔭『自己中心 明治文壇史』(1912)

 まだ小ネタが残ってました。
 江見水蔭『明治文壇史』の明治三十二年(1899)の項より。
 
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 新年からは『空中飛行器』といふ小説を掲載し始めた。飛行機を器と書くほど、其方の知識には幼稚であつたが、それでも其時代としては非常に珍しい題材として歓迎された。(恐らく日本に於ける飛行機小説の最初の物であらう。)
 (292ページ 「器」の字の横には▲、「機」の横には△の記号あり)
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 「飛行器」という表記は弦斎や漱石も使ってますので、特に間違いではありません。ライト兄弟の一号機なんかを見ると、「機」より「器」の字のほうがしっくりきます。
 問題は、新しい題材を扱う際の、水蔭という作家の浅薄さです。
 この次のページで水蔭は、弦斎や桜痴の小説を「大甘物」(通俗)と書いていますが、彼らのような、新しい技術が人間生活にもたらす変化への批判的検討といったものは、水蔭の小説には見られません。星一原案の『三十年後』を除けば。