核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

ヤン・ヴァイス『迷宮一〇〇〇』(創元推理文庫 1987 原著1929)

 第一次世界大戦後に書かれた、薬と星をめぐる夢の物語。
 空気より軽く、鉄よりも硬い元素ソリウムが発見された近未来。謎の人物オヒスファー・ミューラーはその新技術で医薬品と宇宙開発のコンツェルンを設立し、千階建ての巨大ビルディングに君臨する支配者となります。はたして彼は人類の恩人か、それとも…。その正体をつきとめるべく、ミューラー館に潜入した探偵ピーター・ブルークの探索が始まります。
 東欧チェコスロヴァキアの作家ヴァイスが『三十年後』を読んでいたはずはないのですが、おおもとの構想は妙に似通っています。ユートピアディストピアの違いはありますが。
 実のところ、雰囲気だけなら、居心地悪いぐらいに健全な『三十年後』より、『迷宮一〇〇〇』の退廃っぷりのほうがはるかに私の好みです。読むボサノヴァとでもいいますか。ルパン三世の緑のほうといいますか。
 (以下ネタバレ)
 実はミューラーの宇宙旅行会社というのは大がかりな詐欺でして、異星での一攫千金を求めてやってくるお客さんを奴隷化して、ビル建設やソリウム採掘に酷使していたわけです。探偵ブルークは反ミューラー組織が開発した薬で透明化に成功しますが、その期限は三十日。果たして探偵ブルークは三十日以内にミューラーとの決着を果たせるか?
 後半は王道冒険活劇ものなのですが(それはそれで十分楽しめます)、作者の問題提起はむしろ、「薬」と「星」への過剰な期待への批判にあったと思うのです。
 最後に、五〇〇番台の歓楽街での、客引きの一言を。
 「星の夢がどんな冒険だって体験させてくれるぜ。
  それには〈スタードリーム〉を買うことだ。
  ただし、忘れずに商標に注意すること!」
 (1040ページ。なおこの本は1000ページから始まっています)
 …なんか某製薬の広告のような。