核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

偽りの平和主義について

 村井弦斎『誉の冑』を読んでみたのは、大坂冬の陣、夏の陣の経緯に、平和主義者を自認する者としていくらかの関心があったからでした。

 たとえば徳川家康大坂冬の陣で、豊臣方に和議を持ちかけたのは、家康が公正と信義を愛するからとか、絶対平和主義に目覚めたから……ではもちろんありません。

 和議の条件として大坂城の堀を埋めさせ、防御力を低下させるのが目的で、それが済んだ後はまた大坂夏の陣をしかけ、豊臣家を滅ぼしています。公正も信義もないやり方です。こういう策略は「偽りの平和主義」と呼び、警戒すべきでしょう。

 たしかカントの『永遠平和のために』にも、将来の戦争を前提とする和平条約は永遠平和の名に値しない、との論がありました。世界史を学べばわかりますが、世界には徳川家康なんか比べものにならない悪質な策略家や侵略者がごろごろいるのです。

 戦後平和主義そのものが偽りの平和主義だとは言いませんが、偽りの平和主義につけこまれやすく、だまされやすい要素を内包しているのは確かです。日本国憲法前文にある、「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して」なんてのには、私は危うさを感じます。諸外国民と言わずとも、憲法制定当時の日本にだって、戦争を愛してやまなかった不正不義の人はごろごろいたでしょうに。

 すべての平和主義を疑う必要はありませんが(それは冷笑主義、自称現実主義への道です)、少しだけ用心深くなる必要はあると思います。「積極的平和主義」や「世界平和統一家庭連合」やなんかの美名に惑わされないためにも。

 なお、村井弦斎歴史小説『誉の冑』には、そうした、真の平和主義とはいかにといった考察は、残念ながら見られませんでした。