核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

春陽堂版『明治大正文学全集 第十五巻 村井弦斎 江見水蔭』 後半六篇あらすじ

 ネタバレフルバ―スト。

・「水錆」(1915(大正4年)11月) 鮎の名所入間川で、裸体になって飛び込んだら、なじみの酌婦が泳いで来て…といった青年時代の甘い追憶から始まる、半生の恋愛史をつづった自然主義的作品。第一次大戦下の発表だが言及はなし。

・「備前岡山」(1911(明治44)年4月) 42歳になった文士「恵美水影」の10年ぶりの帰省。岡山は大演習のさなか。国事に尽くして贈位された亡父の事績をたどり、己の起源を見つめなおす。以下、気になる箇所を引用。

 「(偶然の出会いを)同じ列車に加之(しかも)席を隣りして座らしめるとは、自然派なら事実でも切捨てるだらう」

 「戟(ほこ)取りて国に尽すの人よ。其数十万か。筆を提(ひつさ)げて国威を輝かす者、此所に来る唯一人也といふ気が、生ぜずにはゐられなかつた。斯うした意気張り(いきはり)を出すに連れて、自分の気の弱さが能く知れて来た」

 「自分は自然主義では無いが、不規律なる生活を送る小説家である」

 「新思想家よ、旧道徳を全然如何(どう)して捨てる?矢張それは若い時の若い考へだ」

・「暁に帰る」(1928(昭和3)年4月) 「備前岡山」の後日談的な帰郷もの。「備前岡山」を『文藝倶楽部』に掲げたとの記述あり。60歳となり、故郷は前来た時よりもさらに変わっていた。

・「故郷の寂しさ」(1928(昭和3)年9月) これも帰郷もの。大衆円本(この全集とか改造社ですね)のお蔭で母の墓碑を建てることが出来、老妻と愛女を連れて帰省。

・「蛇窪の踏切」(1907(明治40)年6月) 肺病で世をはかなんだ女性の、鉄道自殺に至る心理を描いた小説。ブタの鳴き声の擬音が興味深い。
 「豚はなる程沢山飼つて有るらしい。グー、グー、ゲー、ギュー、ブーー、ギュ(踊り字2回)、種々(いろいろ)の声で鳴き騒いで居た」

・「蕎麦凍る夜」(1926(大正15)年6月) 一月の信州で、線香の様にポキポキしたそばを食べつつ、芸者の身の上話を聞く老文士。特にオチはなく、自然主義的。