ライト兄弟の有人飛行(1903)より一年前に、日本人兄弟による飛行器の発明を描いた小説です。
(2014・10・17追記 初出は明治32(1899)年の新春と、『自己中心 明治文壇史』にあったのを、以前自分で書き写しておいて忘れていました。ライト兄弟より4年前です)
以前紹介した『空中の人』と違い、こちらは最初から飛行器が出てきます。
新年の下野国鞍掛山。春野鶴夫少年はタコに団扇をつけた自家製飛行器で、弟の雪人と実験を始めます。
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「兄さん、好いよ。然(さ)うしたら僕が鳥のやうに空中を飛び歩かれるのだね。好いよ、僕は飛ぶよ。だけれど、若し、落ちたら、怪我するね」
「なに落ちるものか。さァ、今だ、飛べ!!!飛べ!!!早く飛べ!!!」
(近代デジタルライブラリー 『空中飛行器』前編 8/92)
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石垣から落ちた雪人は大怪我をしてしまいますが、鶴夫は懲りずに軽気球やパラシュイトでの経験を重ねて放浪していきます。幼馴染との悲恋や数々の妨害の果てに、春野兄弟は風力にも水素ガスにもよらない、自由に空を飛べる飛行器械を発明します。気になるその原理は。
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製造の方法、機械の組立の如きは、素(もと)より大秘密であつて、人に示すべき限りではあらぬ。
(近代デジタルライブラリー 『空中飛行器』後編 63/86)
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いや、作品内レベルで秘密なのはわかりますけど(いきなり陸軍に採用されてますし)、読者にまで秘密にしなくてもいいんじゃないでしょうか。
『空中の人』もそうでしたけど、飛行機なしでも成立する話でした。陸軍内での差別への批判など、評価すべき点はあるにせよ。