江戸時代の短編小説集『春雨物語』(1808)中の、文学的海賊の物語。
『土佐日記』で知られる紀貫之(きのつらゆき)が都に帰る途中、海賊と称する男が現れます。何がめあてかと思ったら、『古今集』の編集ぶりにさんざんけちをつけただけで帰っていきまして。都についたらまた手紙をよこして、つらゆきという名前自体間違ってるからつらぬきに改名しろとか、無茶なことが書いてありました。
この海賊、もとは文屋の秋津(実在の人物。ただし紀貫之とは時代違い)という博識の人だったものの、行状が問題でついに海賊に落ちぶれたとのこと。
これだけでも意味不明な話ですが、最後の二行はさらに意味不明です。
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これは、我欺かれてまた人を欺くなり。筆人を刺す、また人に刺さるれども、相共に血を見ず。
(近代デジタルライブラリー 『上田秋成集』永井一孝 校 1926 189/384)
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我が文屋で人が紀貫之だとすると、欺いたのは誰(何)なのか。「血を見ず」とはポジティブな意味でなのか。今のところ結論は出せませんが、自分なりの宿題として気にとめておくことにします。