核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎『日の出島』

豊橋村井弦斎研究会、発足!

東愛知新聞のサイトより。2022年7月27日掲載記事とのこと。 村井弦斎の偉功を知って 豊橋に研究会が発足 | 東愛知新聞 (higashiaichi.co.jp) どうも豊橋市民の方限定のようですが、来年(2023年!)の生誕160年に偉人伝発刊も計画中とのこと。…

『日の出島』「新高の巻」再読計画

以前、村井弦斎の大長編『日の出島』を完読する企画を立てたのですが、「新高の巻」だけは適当に読み飛ばしてしまいました。 新たに植民地となった台湾を、ヒロインの雲岳女史ら一行が探検する話で、その差別的な描写や帝国主義的な雰囲気に耐えられなかった…

大長編『日の出島』を三行にまとめると

太陽熱・太陽光エネルギーが実用化された「もうひとつの明治三十年代」を描く、近未来空想小説。女性の社会進出や軍隊参加など、時代を先取りした話題も多い。しかし、長期連載による発明の蓄積は現実の明治との乖離を起こしてしまい、日露戦争を前にして中…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その12(最終回)雲岳女史の意気虹の如し

「朝日の巻」の下巻になって登場した藤原大公爵と孫の玉姫。この二人が人道同盟会の支援についたことにより、登場人物間の勢力図は一気に塗り替えられました。 悪事を尽くしてきた犬山と琴次の兄妹もついに悔悟し、雲岳女史らと共に太陽船で大陸に渡ることに…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その11 「釣工合」

詐欺師犬山が語る釣り理論。 ※ 「魚を釣るのだつて中々呼吸が六(むづ)か敷(し)い、早く釣上げると魚が鈎(はり)にかヽらず、長く釣上げずに打捨てて置くと餌だけ只取られる、况(ま)して人間を釣るのは急ならず緩ならず程の好い釣方で無くつては不可(…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その10 「覚悟の破船」

悪人でさえ、「覚悟」がなければ成功できないというあたりが弦斎らしいというか。 初期の「蓬莱の巻」の頃から登場していた、不良書生コンビの犬山と牛沼。 中盤からは犬山の妹の芸者琴次も加えて悪人トリオとなり、太陽燈反対運動の手先になったり、琴次に…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その9 おまわりさんこいつです

嘘の研究を続ける幸福先生の耳に、子供を叱る母親の声が入ります。 早く家に入らないとお灸を据えるとか、言うことを聞けばカステーラを遣るとか言った末に。 「言ふ事を聞かないとお巡査(まはり)さんに連れて行かれるよ、ソラ向ふから来た」 遅塚麗水の「…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その8 自然主義批判 から侵略主義批判へ

紹介に値する文章を探すうちに下巻に突入。『日の出島』もあと少しです。 幸福先生の、というより村井弦斎の持論、不自然主義が炸裂します。 ※ 「今の世には自然主義と云ふ謬説(びうせつ)があつて何んでも自然を尚(たうと)ぶ、怒り度(た)い時に怒るべ…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その7 「嘘の研究」

嘘とは3ディメンジョンを有するものか、CGSの単位式で測定すべきものか。 女中のお細となった細烟女史を相手に、幸福先生の研究が始まります。 今回は改行を補って引用します。お細の発言にご注目ください。 ※ 是より後幸福先生は仲働きのお細を対手にして…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その6 「幸福の源」

書きたいこと、書くべきことがたまってきたので、『日の出島』の読書日記もそろそろ締めに入ります。あと0.7巻ほど。 幸福先生のお父さんが語る、一家幸福の秘訣とは。 ※ 「俗人は兎角人の真似をしたがつて人に真似をさせると云ふ見識が無い、誰は百円の…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その5 「大凹み」

すっかり出世した洋服姿の雲岳女史と、今や女中のお細となった細烟女史。仮名垣魯文『安愚楽鍋』の「当世牛馬問答」(http://blogs.yahoo.co.jp/fktouc18411906/9941265.html)みたいな図ですが、そんなほのぼのした関係ではありませんでした。 ※ 「雲岳女史…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その4 ブタの丸煮

『日の出島』にも、ブタの丸煮の話が出てきました。 連載初期の「蓬莱の巻」の頃、雲岳女史と下宿の女学生コンビを組んでいた細烟女史が、お糸夫人の女中志願者として再登場。 長崎で中国人から料理を習ったとか、やたら出放題の自慢を並べるので、試しに豚…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その3 嘘吐きについて

長生きすると嫌でも体験する、人生の暗い一面についての、弦斎の一登場人物の発言。 ※ 嘘ほど嫌なものは無い、だが嘘吐きと云ふ者も摘み食と同じ様な病だネ、嘘を吐かないでも宜い事に態々(わざわざ)嘘を吐く、嘘を吐いて居なければ面白くないと云ふ病があ…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その2 「軍人政治」

昨日の憲法記念日にやるべき話でした。あの雲岳女史が、政治家の腐敗が軍人のクーデターを招く危険を警告した一節です。 星亨のような「権勢の奴隷」的政治家がはびこり、議会や憲法に国民が失望した明治30年代。 もし、このまま政治不信が募れば。 ※ 「兵…

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その1 進化論

博士論文の第五章でも引用しました、人類の未来を雲岳女史と愉快な仲間たちが大胆に予測する一節。ようやくここまでたどりつきました。今回は新聞連載版より引用。 ※ 「僕は何うかして人間の身体に羽の生へる工風がして見度いのです。尤も西洋ではヤレ風船の…

村井弦斎『日の出島』「曙の巻」 その7 「郵便物紛失」(最終回)

お富嬢からの緊急の蓄音器通信を聞くために、東京に集結した発明会の面々。しかし、かんじんの録音盤を郵便局が紛失したらしく、会議は大騒ぎになります。 ※ 「私の知つて居る小説家に五年も六年もかヽつて一大長篇を書いて居るものがありますが其人の話にも…

村井弦斎『日の出島』「曙の巻」 その6 「六万年」

お富嬢から緊急の蓄音原版を受け取った雲野博士。さっそく上京してロシア軍の情報を公表すべきだったのですが、京都に遺したなじみの芸者、琴次(ことじ)のことが気にかかります。 ※ 「琴次の言葉に一日逢はざれば千秋の如しと云つたが十日逢はざれば万秋の…

村井弦斎『日の出島』「曙の巻」 その5 蓄音通信

無事、近代デジタルライブラリーも復旧したようなので続きを読みます。 郵便事故に懲りたのか、今回は蓄音器の録音盤でメッセージを送る話です。 ※ 箱の中より第一号原版を取出し蓄音器に挿(さしはさ)み螺旋(らせん)を廻して発音せしむればお富嬢の電話…

村井弦斎『日の出島』「曙の巻」 その5を書こうと思ったら

緊急システムメンテナンスのため、近代デジタルライブラリーは使用停止とのことでした。 中止じゃなく停止なのが気になるところです。『日の出島』だけでも全部読んでおくべきでした。

村井弦斎『日の出島』「曙の巻」 その4 原稿消失

やっぱり、弦斎は新聞で読まないと、面白さが伝わらないようです。義和団事件と物語の同時進行もそうなのですが、以下のようなハプニングも。 ※ 弦斎曰く原稿十回郵送の途に行衛を失ふ、雲岳女史を支那より呼返して逓信大臣に談判せしめんと存す、再度の執筆…

村井弦斎『日の出島』「曙の巻」 その3 牛肉屋

1900(明治33)年の、牛肉屋の業界用語集。 ※ 女中頭「サア二十五番さんロースで御酒ーと聞える様に言はなくつては不可(いけな)いよ、何番さん鍋で御飯と大きく云ふのだよ、割下と云へば土瓶を持つて行くのだし、ゴブとは葱(ねぎ)の事で、紫(むら…

村井弦斎『日の出島』「曙の巻」 その2 無線電信

昨日は(予定)とだけ書いてさぼってしまったので、今日は二連続で行きます。 前回に続き、馨少年の結婚相談。 ※ 主人「馨君、君も充分に御承知である事だが、マルコニー式の無線電信は発信機の方で電気のスパーク即ち火花を出す、その火花がイーサーに波動…

村井弦斎『日の出島』「曙の巻」 その1 水力発電

連載中(1900(明治33)年)に義和団の乱(清国の反帝国主義活動)が起きたこともあり、この巻からは「軍国主義的色彩が強い」なんてなまやさしいレベルではなくなってきます。語り手も登場人物たちも、義和団を「頑固なる攘夷党」と断じ、文明諸国の…

村井弦斎『日の出島』「東雲の巻」 その4(最終回) 世界の終り

『ごちそうさん』も終わったことだし、久しぶりに『日の出島』に戻ってみます。といっても、殺菌剤の発明が終わった後はさして面白いこともなく、徴兵年限に達した馨少年の、のらくろなみにリアリティのない軍隊生活が描かれる程度です。 ただ、これはと思っ…

村井弦斎『関東武士』(1894(明治27)年刊行)

あらためて、黒岩比佐子さんとはもっと早くお会いして教えを乞いたかったと、つくづく思います。 この『関東武士』も、下記のブログを拝見しなければ見逃すところでした。 http://blog.livedoor.jp/hisako9618/archives/27725498.html 以下、あらすじを引用…

村井弦斎『日の出島』「東雲の巻」 その3 「低温度」

村井弦斎の科学知識もけっこう怪しいのですが、私の方もそれに劣らずでして。 以下の記述は、あくまでも明治30年代のSFということでご理解ください。つっこみをいれるだけの能力は私にはありません。 これまでの工業技術は高温で蒸気や電気を起こしてき…

村井弦斎『日の出島』「東雲の巻」 その2 超特急

関東発明会の総力を結集し、ついに馨少年の発案した細菌撲殺剤が完成します。 さっそく駿河国静が浦(沼津あたり?)で静養中のお富嬢に届けることになります。 お富嬢のほうも無聊をかこっていたようで、つい交通機関への不満を語ります。 ※ 「是れが西洋な…

村井弦斎『日の出島』「東雲の巻」 その1 華氏八十八度

冒頭の「寒暖計」の章より。明治時代は華氏で温度を表記していたようですが、例外もありまして。 ※ 石橋「左様、三十一度六七分位かネ」 貢生「それは摂氏ですな、何(ど)うも我々素人には摂氏の度が耳馴れません、華氏で九十度とか百度とか云ふと何程の暑…

認知的不協和。

これがヘーゲルなら、『法の哲学』だろうが『歴史哲学講義』だろうが、そういう人だからなですませられるのですが…。 村井弦斎が国家主義をおおっぴらに賛美しているのを見ると、私は葛藤を感じずにはいられません。そのほかの点ではもののわかった人だと知…

村井弦斎『日の出島』「白髭の巻」 その1(最終回) 馨少年の人体実験

作者弦斎の脳中狂なるに非ざるか。そうつぶやきたくなる巻です。いつかは面白くなるだろうと斜め読みしてたら最後まできてしまいました。 雲岳女史が未婚の青年男女を集めて開催した、無名園遊会。そこにかつての下宿人の一人「自称哲学者」が現れ、創作講談…