核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎『日の出島』「朝日の巻」 その8 自然主義批判 から侵略主義批判へ

 紹介に値する文章を探すうちに下巻に突入。『日の出島』もあと少しです。
 幸福先生の、というより村井弦斎の持論、不自然主義が炸裂します。 

   ※
 「今の世には自然主義と云ふ謬説(びうせつ)があつて何んでも自然を尚(たうと)ぶ、怒り度(た)い時に怒るべし、笑い度い時には笑うべしと云ふ間違つた主義が流行する、文学界に其の弊が盛んで猥褻は人間の自然である、だから小説は猥褻に限るなぞと云ふ妙な事も起る、其の所謂(いわゆ)る自然は獣道(じうだう)を意味するので人間を動物性に戻すことだ、人道の自然は次第に人間を動物性より遠ざけて段々究屈に段々静粛に段々規律あるものにするのです、小さく云へば一個人一家内の事であるが大きく云へば一国一州の事も皆な同じで、弱い国があるから奪つて我が領土にしやうと云ふのは則ち獣道、弱い人民があるから滅亡させやうとするのは則ち獣道、弱い国だから援けてやらう、弱い人民だから憐れんで遣らうと云ふのが人道の本意ではありませんか」
 (近代デジタルライブラリー『日の出島 朝日の巻 上下巻』 98/168)
   ※

 この『朝日の巻』が報知新聞に連載されたのは、1901(明治34)年の1月3日から4月21日。単行本刊行は翌10月。日露戦争の3~2年前です。この時期の弦斎は侵略主義にはっきりと反対していました。
 ただ、世界に人道を実行するためには、「二十六万トンの海軍」「十三師団の陸軍」という軍事力の裏付けが必要であるとも、引用部分の直後に書かれています。『日の出島』での弦斎は、ついに最後まで軍備廃絶論者にはなりませんでした。
 なお、文学界という表記はちょっと気になりましたが、連載時期からしても雑誌名ではなく普通名詞ではないかと思います。実は生『文学界』はろくに読んでいないので断言はできません。