核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎『日の出島』「曙の巻」 その6 「六万年」

 お富嬢から緊急の蓄音原版を受け取った雲野博士。さっそく上京してロシア軍の情報を公表すべきだったのですが、京都に遺したなじみの芸者、琴次(ことじ)のことが気にかかります。
 
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 「琴次の言葉に一日逢はざれば千秋の如しと云つたが十日逢はざれば万秋の如く二月逢はざれば六万秋の如しだ、六万年の歳月は地質学上の一新地層を構成するに余りあり、地球自転の速度は百年に二十二秒づヽ減少するから六万年では三時間と四十秒の減少になる、其の時分には地球上に今の人類が無くなつて一層高等なる動物の出顕(しゆつげん)するに違ひない、三面六臂の鬼になるか、千手観音の佛になるか、木星の人類が地球に移住するか、太陽系が分裂するか、兎に角に僕も無くなれば琴次も無くなる、それを無断で東京へ行つては僕の義務が立たん」
 (近代デジタルライブラリー『日の出島 曙の巻 上下巻』 173/197)
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 …壮大なスケールで悩んだ挙句、雲野は芸者を急行で東京まで連れていくことにします。
 「鬼」とか「佛」を進化した動物と見る発想は新しいのでは。