『ごちそうさん』も終わったことだし、久しぶりに『日の出島』に戻ってみます。といっても、殺菌剤の発明が終わった後はさして面白いこともなく、徴兵年限に達した馨少年の、のらくろなみにリアリティのない軍隊生活が描かれる程度です。
ただ、これはと思ったのは以下の、雲岳女史が奇妙なエネルギー談義と終末論を展開する一節。
エネルギーそのものは不滅だが、適用されていくうちに熱として空間中に飛散していくので、最終的には宇宙には温度差も運動もない終末が訪れる、という説を紹介した馨少年に対して。
※
「いかに馨少年、君は今世界のエネルギー変衰して宇宙の万物運動を停止する時ありと云へり、何人が斯る愚説を唱へ出だせしぞ、万物の運動停止せば妾は独力を以て再び其運動を創(はじ)めしめん、(略)学者と雖も世界の初を知らず、安(いずく)んぞ世界の終りを知らん」
(略。地球にも始まりと終わりがあるという馨少年の反論に)
雲岳女史「然らば君に問(とは)ん、学者は世界万物の終期を知れども時なる者の最大限を知るか、(略)妾は人類の生命をして老ゆる事無く死する事無く即ち無限大の者たらしめんと欲するなり」
(近代デジタルライブラリー『日の出島 下巻』(72~73/498)
※
…ウィキペディアの「熱的死」の項を見たら、「熱的死という考えを1854年に最初に提唱したのはヘルムホルツである。これはクラウジウスがエントロピーという物理量に基づいて熱力学第二法則を最終的に定式化する11年前(1865年)のことであった。」とありました。この『日の出島 東雲の巻』が新聞連載されたのは1900(明治33)年なので、特に最新の話題でもないようです。
ただ、雲岳女史の前向きすぎる生き様は好きです。本気で宇宙移民や人類の永続を考える明治文学のヒロインなんて、村井弦斎以外の誰に書けるでしょうか。