昨日扱った柳瀬論文の注38には、「福地がなにがしかの西欧由来の「演説する女」表象の「種本」を持っていた可能性はどうか、など検討の余地はいくつも残るが別稿に譲る」とあります。
確かに福地桜痴『女浪人』(一九〇二)がイギリスあたりの女権小説をモデルにした可能性はありますが、私はそっちはくわしくないので。まず近い時代の近代日本文学で思い当たるやつを。
当ブログでもかつて扱った、村井弦斎の『日の出島』(一八九六~一九〇一)という大長編に、雲岳女史(うんがくじょし)という、巨体の女学生が出てきます。常に漢文書き下し口調でしゃべり、女権拡張を演説・議論し、台湾の奥地を探検し、北清事変では女子軍を率いて軍事介入する「戦う女」です。
語り手は当初戯画的に描いていたのですが、『報知新聞』読者から圧倒的な支持を受けたらしく(読者投稿欄に雲岳女史あての人生相談が載ったりします)、後半では馨少年をさしおいて主人公扱いになります。
福地桜痴は晩年に弦斎『脚本 食道楽』の劇評を書いたりもしているので、『日の出島』も読んでいたのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
当ブログ内で「雲岳女史」を検索すればいろいろ出てきますが、私が一番好きなやつをリンクしておきます。雲岳女史が宇宙の熱的死を否定し、永遠不滅説を議論する一節です。
村井弦斎『日の出島』「東雲の巻」 その4(最終回) 世界の終り - 核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ (hatenablog.com)