核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎『日の出島』

村井弦斎『日の出島』「老松の巻」その4(最終回) パラテクストあるいは余白に遺された痕跡をめぐって

私は関肇氏と同じく、国会図書館所蔵本の『日の出島』「老松の巻」を読んでいたのですが(こちらは近代デジタルライブラリーで)、関論文にも引用されている、あの落書きを発見しました。内容はどうってこともないのですが(発表当時の読者だという保証もな…

村井弦斎『日の出島』「老松の巻」その3 朝日敷島両戦闘艦など

台湾から帰国し、結婚相談所みたいなことを始めた雲岳女史。未婚青年男女のための無名園遊会(合コンですね)をプロデュースします。 とはいえ作者が村井弦斎なので、「酒は百害ありて一利なし」、文明流の余興として、以下のような企画が立てられます。 ※ …

村井弦斎『日の出島』「老松の巻」その2 ニコラテスラ氏の細菌撲殺法

ここ数巻ほど出番のなかった馨少年。新聞連載にして一年ぐらいは出てなかったはずです。当時の読者も忘れてたのではないでしょうか。私はここ数日ヘーゲル読んだりして弦斎から離れてましたが、どうにか覚えてました。 「蓬莱の巻」での初登場時は、年上のお…

村井弦斎『日の出島』「老松の巻」その1 「太陽熱」

雲岳女史が台湾で探検隊ごっこにはげんでいる間に、内地では太陽燈に続いて、太陽熱エネルギーが実用化されていました。 「太陽の温熱を自由に吸収放散し得る」発明。明治近未来SFの本領です。 ※ 「太陽熱と云ふものは炭や薪の代りをして大層重宝なものだ…

村井弦斎『日の出島』「新高の巻」その2 「遊泳術」(最終回)

当時、『早稲田文学』誌の一女性読者が『日の出島』を絶賛した記事が、2012年5月6日(http://blogs.yahoo.co.jp/fktouc18411906/archive/2012/05/06 参照)にあります。 ※ 私は弦斎居士が一番大好でございます、弦斎居士のは誠に読んでをりまして、あ…

村井弦斎『日の出島』「新高の巻」その1 木星土星海王星

さんざん書きあぐねた『日の出島』の感想ですが、近デジもいつまでも無料とは限らないし、とっとと終わらせることにしました。 当時(1898年)、日本の領土になったばかりの台湾へ新婚旅行に行く雲岳女史夫妻。その船中にての感想です。セリフが文語体な…

やっぱり、弦斎は新聞で読まないと

明治の新聞5年分となると、1日や2日では無理だとは思いますけど。リールのセットに毎回手間取るのです。大事な資料を傷つけないよう、あせらずに読めるとこまで読んでみます。

村井弦斎『日の出島』「新高の巻」その0

正直、この巻は飛ばそうか迷っています。 巻名の通り、富士よりも高い、大日本帝国で一番高い山に登る話です。 善意と人道主義に満ちあふれた帝国主義というのは、そうでない帝国主義よりましなのでしょうか?反語ではなく疑問形です。 この巻について語るに…

村井弦斎『日の出島』「富士の巻」その6

最後まで読みましたが、「画の効用」の後は特に面白いネタもなかったので。 やりのこした宿題を片付けていこうと思います。チョコレートとか戦艦富士とか。

村井弦斎『日の出島』「富士の巻」その5 「画の効用」

村井弦斎が絵画芸術について語る、珍しい一場面です。 正確には、お富嬢に肖像画のモデルを頼みに来た、馨少年の兄の貢君のセリフです。 ※ 我邦にも大分油絵が盛(さかん)になつたが更に油絵らしい大作も見受けない、それと云ふのが畢竟油絵の趣意を誤解し…

自然主義じゃないけどリアリスト

村井弦斎の小説を実際にお読みになった方なら、あるいは納得していただけるかもしれません。 弦斎の作品は自然主義以前の手法で描かれておりまして、個々の人物はどうも戯作的というか 、あんまり文学らしくないんですけど。 ただ、弦斎にリアリストを感じる…

村井弦斎『日の出島』「富士の巻」その4 「新華族」

「金十匹」の挿話より少し前、お金夫人が奉公先を探す時点の章です。 口入れ屋によると、近頃(明治30年代)には華族の質も低下したそうで。 ※ 「私どもなんぞでは毎度華族さんへ人を入れるが此頃は華族さんが沢山になつたから仲には随分妙な家があるぜ (…

村井弦斎『日の出島』「富士の巻」その3 「金十匹」

今日はCiNiiがお休みなので、また日の出島に戻ってみます。 ふつつかぶりが目に余り、ついに華族の家に奉公して礼儀作法を学ぶことになったお金(きん)夫人。さっそく「お上」からご祝儀の「金十匹」を賜ります。 ※ お金夫人有難さうに披き見て「オヤ(踊り…

村井弦斎『日の出島』「富士の巻」その2 キッス

太陽燈反対の一味にそそのかされ、石橋学士の前に現れたお金夫人。西洋人の夫婦は人前で抱き合って接吻をすると教えられ、実行しかけたとこでお富嬢に阻止されます。 ※ お富嬢慨然として嘆息し「爾(さ)う言つて見れば今では随分西洋風の真似をする人も沢山…

村井弦斎『日の出島』「富士の巻」その1 戦艦道楽

実在の新造戦艦「富士」を雲野学士らが見学し、その最新技術ぶりをひたすらレポートする異色の巻です。 ついに弦斎のやる気スイッチが入ったのか、わがままを通せるほど報知新聞社内での地位が上がったのか。『食道楽』のお登和嬢を思わせる饒舌で語りたおし…

村井弦斎『日の出島』「住の江の巻」 その4(最終回) 「太陽熱」

下の箇所を拾い読みしたのは2011年の7月19日でした(http://blogs.yahoo.co.jp/fktouc18411906/5137889.html)。たどりつきました。 ※ 「その大発明とは何です」 雲野「それは世界に向て熱を供給するのだ。即ち石橋君の研究材料を半分借りて太陽の熱…

村井弦斎『日の出島』「住の江の巻」その3 「太陽燈」「浮世の様」

だいぶ前から予告されてましたが、ついに石橋学士の太陽燈が完成しました。お富嬢率いる関東発明会の資金援助のもと、商品化に入ります。(近デジ117/177) 十銭出せば一年も二年も壊れることはなく、一夜付け通しても費用は三厘にもならない すぐれ…

村井弦斎『日の出島』「住の江の巻」その2 雲岳女史の婚礼演説

実は地方旧家のお嬢様だった雲岳女史。お富嬢のフォローもあってどうにか縁談がまとまったのですが、無事に終わるはずもありませんでした。婚礼の席で「さて諸君」と演説を始めます。 「新家族の帝王たるものは何である、疑もなくその家の花嫁である」 銀河…

村井弦斎『日の出島』「住の江の巻」その1 チョコレートを食べる雲岳女史

ちょっとロールズで疲れたので、やわらかめの話にします。 ついに結婚話が持ち上がり、故郷の静岡県に帰った雲岳女史。旅館で西洋通ぶって「チーは要らん。カツフヰーとミルクとシユガァーを貰い度(た)い」と注文したところ、出てきたのはチョコレートでし…

村井弦斎『日の出島』「高砂の巻」その6(最終回) 「竹の産物」

わけあって静岡県興津を旅するお富嬢は、汽車の踏切に飛び込もうとした自殺志願者を助けます。そこで聞かされたのは、発明の世紀の暗い一面でした。 ※ 「此の静岡県は竹細工の名所で今では竹製の帽子などを外国へも輸出致します。 (略。竹の新たな利用法と…

村井弦斎『日の出島』「高砂の巻」その5 太陽エネルギー

「僕はエネルギーの事を研究して居るよ、エネルギーの事は随分面白くつて世界の万象一としてエネルギーの法則を外れる者は無いがその代り之を百事百物に就いて研究するには到底一人の力で成し得られる者で無い」 (近代デジタルライブラリー 『日の出島』「…

村井弦斎『日の出島』「高砂の巻」その4 弦斎落語「金本位」「葉煙草専売」「臥薪嘗胆」

この村井弦斎ってえ御仁は、何かといえば「文明流」に「改良」するのが大好きなお人で。そんな弦斎の改良落語、さわりの部分だけ紹介します。 ※ ・「金本位」 (金本位制の意味がわからず、世の中は金ばかりになると思い込んだ夫婦。ふきんやぞうきんを集め…

村井弦斎『日の出島』「高砂の巻」その3 「アルミニユーム」

「アルミニユームは鉄よりも非常に軽くつて鉄よりも非常に堅い鉱物だし、到る処の土中には採り尽くせぬ程ある物だから、それを鉄に代用する時代が来れば鉄の時代は変じてアルミニユームの世界となる。今日は亜米利加に一ヶ所製造所があつて専売特許で製出し…

村井弦斎『日の出島』「高砂の巻」その2 薫少年の小説「朝日丸」

下宿に押しかけてきた不良書生たちに、書きかけの小説を見つかってしまった馨少年。雲岳女史に大声で朗読されるはめになります。 南北朝時代。捕虜になった南朝の武将、本間資氏(ほんますけうじ)は、息子の朝日丸もろとも北朝の赤崎基重(あかさきもとしげ…

村井弦斎『日の出島』「高砂の巻」その1 雲岳女史の小説

思えばドラえもんのジャイ子も、第一話ではしずかちゃんの引き立て役にすぎなかったわけで。「まんが家ジャイ子」あたりで自己表現に目覚め、「やあ首つりだガハハ」→「あたしには才能がないんだわ」と、準ヒロイン的存在への変貌を遂げたわけです。そして虹…

村井弦斎 『日の出島』「鶴亀の巻」その2(最終回)

「文学魔界」の後は本当に薄い内容でして、つい最後まで読んでしまいました。離婚騒ぎでもめたせいか、石橋学士の新光線は最後まで完成しないまま。 トランスジェンダーとかそっちの研究者ならば、少しは読む価値があるかもしれません。雲岳女史がそろそろ、…

村井弦斎 『日の出島』「鶴亀の巻」その1

ゆる~い下宿コントを延々と辛抱し続けて72コマ目。ようやく前にも紹介した「文学魔界」の章にたどりつきました。 ここから弦斎の同時代文学評に入るわけですが、その前にちょっと頭を切り替えておく必要がありそうです。 この時期の弦斎に、まっとうな平…

村井弦斎 『日の出島』「蓬莱の巻」その9 「残る二幕」(最終回)

「アゝ、モー倦厭(あき)た(踊り字)、糸ちやん、ホントに妾(わたし)は倦厭(あき)つちまつたのよ」 唐突にお金夫人の感想が挟まって『日の出島』本編に戻り、劇中劇「日の出島」はここで終わります。 私としては本編より市之丞のその後のほうが気にな…

村井弦斎 『日の出島』「蓬莱の巻」その8 「日の出山」第三幕 後藤又兵衛の反戦論

後藤又兵衛と真田幸村の反戦論。あるいは殉死平和主義。さすがは村井弦斎です。想像の斜め上を行ってくれました。いつもこうならいいのですが。 薩摩藩日の出山の奥御殿で、打倒徳川の妄執を抱いたまま、ひっそりと病死した豊臣秀頼(もちろん、ここから先は…

村井弦斎 『日の出島』「蓬莱の巻」その7 「日の出山」第二幕

『日の出島』の劇中劇、第二幕。 ところ変わって薩摩の国。ここ日の出山の奥御殿には、大坂城で討ち死にしたはずの豊臣秀頼と真田幸村ら家臣一同が、島津家にひそかにかくまわれていました。 島津の態度に疑惑を抱いた江戸方の間者大河内市之丞は、庭師に身…