「アゝ、モー倦厭(あき)た(踊り字)、糸ちやん、ホントに妾(わたし)は倦厭(あき)つちまつたのよ」
唐突にお金夫人の感想が挟まって『日の出島』本編に戻り、劇中劇「日の出島」はここで終わります。
私としては本編より市之丞のその後のほうが気になるのですが、ダイジェストで解説される残る二幕によると、義父の切腹を介錯した後、無事に薩摩を脱出したようです。
「矢ツ張り爾(そ)んな事計(ばか)り仕て居るのネー、何故モツト意気な濡事(ぬれごと)でも遣らないんだらう」。お金夫人の感想にも一理あります。戦争は阻止されたとはいえ、武士たちのやる事は人を殺すことばかり。
それを女性または庶民の視点から対置させようとしたのでしょうが、どちらのテーマ(男性原理による天下大平、女性原理による平和)もろくに具体化されないまま終わってしまった感があります。
単行本「蓬莱の巻」に収録された部分はここで終わりですが、新聞連載『日の出島』はまだまだ続きますので(なにしろ、明治最長の小説です)、もうしばらくつきあってみます。