核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

星一『三十年後』 その4 格差解決策

 『日の出島』も読み終えたことだし、この勢いで『三十年後』も通読してみます。
 貧富の格差が拡大し、宗教・道徳・教育・行政・経済のどれもが解決策を見いだせず、マルクス・レーニン主義のような危険思想がはびこった大正初年。そんな時代を一変させた「偉大なる星」とは。

   ※
 『それはです。科学の力なんです。最(も)一ツ細かに云ひますと薬の力なんです。富の平均といふ事は抑(そもそ)も末の末です。物質上の問題です。新救世主は人の健康の平均を考えたのです。危険思想なんか抱く者は、要するに脳の一部に病所の有るからで(略)これに適確に効く薬を服(の)まさしむれば、思想が平均して来る。健康が平均して来る。危険な考へを持ち様が無く成つて来るといふ結論で御座いませう』
 『其通り(踊り字)』と翁は喜び出した。
 (近代デジタルライブラリー 星一『三十年後』 34/138)
   ※

 「其通り其通り」とは言えない話です。私もマルクス主義を「危険思想」だとは思いますが、「病気」だとは思いません。薬を作る側が、自分に都合の悪い思想を「病気」と認定し、それをなんでもかんでも「治療」するなんてのは、それ自体がすでに危険思想です。
 星新一のデビュー作「セキストラ」も、科学の発明で人々の不満を解消させる話でしたが、あちらは最後に衝撃の結末が待っていました。『三十年後』はどうなのか、最後まで読んでみようと思います。