核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎『日の出島』「老松の巻」その4(最終回) パラテクストあるいは余白に遺された痕跡をめぐって

 私は関肇氏と同じく、国会図書館所蔵本の『日の出島』「老松の巻」を読んでいたのですが(こちらは近代デジタルライブラリーで)、関論文にも引用されている、あの落書きを発見しました。内容はどうってこともないのですが(発表当時の読者だという保証もないし)、妙にうれしいものです。
 以下にその落書きを引用。


   ※
 蓬莱、鶴亀、高砂、住之江、富士、新高、老松と読み来りてこの小説の意のある所を疑ふ、構想上余りに不自然に歪曲多し、思ふに作者弦斎の脳中狂なるに非ざるか。
  (142/165)
   ※

 …弦斎の小説ほど、意のある所が明白な小説もないと思うんだけどなあ。
 あれこれ盛り込みすぎなのは確かですけど。根幹のテーマは「文明」のありかたへの考察です。
 西洋文明をなんでも真似するのではなく、空気を汚す石炭の代わりに太陽熱を、高価な石油の代わりに太陽燈をと、SF的なアイディアを提示することで、人を本当に幸福にする文明についてのヴィジョンを提示しようとしていたと、私はこの作品を読みます。軍事力への代替物が示されていないという不満点はありますが。
 なお「蓬莱の巻」でも、徳川家光が出てくるたびに「ちく生」という落書きがありました。倒幕派なんでしょうか。