核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎『日の出島』「高砂の巻」その6(最終回) 「竹の産物」

 わけあって静岡県興津を旅するお富嬢は、汽車の踏切に飛び込もうとした自殺志願者を助けます。そこで聞かされたのは、発明の世紀の暗い一面でした。

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 「此の静岡県は竹細工の名所で今では竹製の帽子などを外国へも輸出致します。
 (略。竹の新たな利用法と販路を考えた末に)
 竹の繊維を織物にするという念を起こしましたのです、勿論世中に繊維質のものは沢山ありますが竹の繊維ほど鞏靭(じようぶ)なものはありません、竹のまゝでは堅剛(かた)過ぎて困りますからそれを柔にして利用すれば何物にも用ゐられ様と非常の熱度を加へて竹の成分を融解しましたらその中に麻ともつかず絹ともつかない様な実に細い毛の様な繊維が現はれます、それを糸の様に引き出して織物に仕ましたらば世界に類の無い特産物、それこそ非常な国品になりませうとサアそれからは丸で夢中になり」
 (近代デジタルライブラリー 『日の出島』「高砂の巻」144/172)
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 ・・・夢中になったものの、竹の繊維化は実現のめどがつかず、千五百円もの莫大な借金を抱えるはめになります。進退きわまった発明家の清次郎氏はついに書置きを残して踏切に飛び込み、お富嬢に命がけで助けられたわけです。清次郎氏は助かったものの、その夫人は後を追って入水してしまいます。
 なお、竹繊維の布は今日(2013年)にはすでに実用化・商品化されています。上記の清次郎氏のエピソードは創作かもしれませんが、便利な発明の陰にはこうした成功しなかった発明家たちの悲惨があることを、弦斎は訴えたかったのでしょう。