核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

村井弦斎『芙蓉峰』(1897)

 久しぶりに村井さんの小説の紹介に戻ります。今回は電力業界が舞台です。
 何やら黒いサーチライトを浴びる女性の挿絵2連発で開幕。『日の出島』と同様、発明熱にとりつかれた明治のお嬢さまが主人公です。
 沼津に住む令嬢福田お秋は、富士山に巨大な照明施設を建造する計画を思い立ちます。賛同者として現れたのは軽薄な花水浮之助と、堅実な岩山徹という二人の青年。
 途中までは、エヂソン氏の白熱電燈には日本の竹が使われてるとか、直流電式と交流電式の得失はどうかといったまともな話をしています。が後半は飽きたのか、陳腐な三角関係話になってしまう、弦斎の悪い癖が出てしまいます。
 登場人物の名前で展開は察しがつくと思いますが、お秋は一度は花水にだまされて財産を奪われかけるものの、岩山の誠実さによって救われ、福田夫妻の力で東京までも照らす富士山電燈は完成したのでした。
 …おおもとのアイディアに説得力がないせいもあり、似たような設定の『写真術』(1894)や『日の出島』よりも見劣りします。SFを面白くするのは、奇抜なアイディアとそれを支える緊密なプロットだとつくづく思います。今度の星新一のドラマは大丈夫でしょうか。