核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

「空中征服」中の、太閤と大塩のレニン(レーニン)評

 賀川豊彦の空想小説『空中征服』の一場面で、大気汚染に苦しむ大阪を救うため復活した太閤と大塩平八郎。幕府への反逆者だった大塩が「ようレニン!」と冷やかされるのはまだわかりますが、意外にも太閤も、レニンの電化政策には好意的です。青空文庫より。

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 「大塩君。そんな煙筒の掃除日といったような、ケチなことをやらさないで、断然このさい大阪市の全動力の電力化を考えなくちゃ駄目だぜ! 私であれば思い切ってこのさい、朝鮮征伐をした勇気をもって、大阪市の全動力の電力化を絶叫するね。その点から言うと、ロシヤのレニンはえらいところがあるね。僕はあのような男が好きだ」
 大塩はそれを冷やかすように、
「あなたとレニンとは少し似たところがありますから、共鳴せられるのはもっともです。しかしあなたがもし、今日のロシアを全部まかされたとして、今過激派の取っているようなやり方をおやりになりますか? 」
「いや、私は過激派のやり方は下手なやり方だと思う。あア人心を倦まさせてはいかぬ。人間というものは妙なもので英雄的なところがないと倦んでくるものだ。すべてを凡人にしてしまうものだから、みなが早く倦いてしまったのだ。もう少し理想主義的なところがなくてはいかぬ。僕はこの点は過激派のために惜しむね。むしろこの点はフランス流の英雄心の高調や、新理想主義の加味せられたサンヂカリズムが面白いと思うね」
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 主人公である賀川豊彦自身は、以前引用したようにレニンを敬せずですが、石炭から電気への移行の必要だけは共感していたのかもしれません。なお、作中で推されているのは水力発電です。