核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

矢野龍渓

福沢諭吉に欠けているもの

周論文を読み、自分なりに福沢諭吉を読んだ体験と合わせて考えたのですが、彼には日本を強国にしようという思想はあっても、より大きな世界平和への理想が欠けている、との結論に達しました。 明治初期の人に世界平和主義を求めるのは酷だという反論も考えら…

周 艶君 「矢野龍渓の中国文化認識 : 福沢諭吉との対比を中心に 」(東アジアの思想と構造)

文部科学省グローバルCOEプログラム 関西大学文化交渉学教育研究拠点[東アジアの思想と構造] 東アジア文化交渉研究 = Journal of East Asian cultural interaction studies (12), 243-258, 2019-03 。 上記書誌情報と論文はCiNiiより。ここ数年、矢野龍…

一九六九年から見た『経国美談』

岩波文庫版『経国美談 下』一九六九(昭和四四)年刊。編者小林智賀平によるまえがきより。 ※ 『経国美談』上篇の復刻版を出し、売行も順調と聞いて、生みの親である筆者も喜こばしい。 懸念していた片仮名交り文も、それ程読み辛くなく、却つて現代と違った…

ムフから見たランシエール

昨日は休んでしまいました。ムフ祭りを開催したのはよかったのですが、旅の疲れがどっと出まして。 ランシエールとの合意点について、ムフは以下のように述べています。 ※ いまや支配的な、合意を至上とする政治は、たとえいろいろな場所でいやというほど聞…

「できたぞ、完成じゃ!」

と博士は言った。今日はここまで。

ほぼ完。

論文の筋はまとまりましたが、今回から注などのフォーマットを変えたので、仕上げに数日かかりそうです。 今回の脳内BGMは、「金太の大冒険」の替え歌で。「慶子、クビだ!ん? 慶子、クビだ!ん? けいこくびだ~ん」とエンドレスで流れてます。慶子さん…

「話せばわかる」でも「問答無用」でもなく―我がムフ読解

あくまでも、「私はムフをこう読んだ」というレベルの話ですが。 「話し合えばみんなわかりあえる」というハーバーマス的な民主主義観は、ムフにとっては楽観的にすぎるわけです。話し合ってもわかりあえない、「われわれ」に還元されない異質な他者というの…

ジャーナリズムはデモクラシーをどう受け止めたか。

……という一節を設けようと思ったのですが。 確かに『経国美談』の各回末には成島柳北・栗本鋤雲ら当代有数のジャーナリストが評を載せているのですが。伏線がどうとか文章がどうとかいう技術批評がほぼすべてでして、『経国美談』が提起しているデモクラシー…

柳田泉の『経国美談』観、共和政治について

立憲改進党が君主制を提唱していたにも関わらず、矢野龍渓が『経国美談』で描いたのは共和制であった、という問題について、柳田泉はこう書いています。 ※ だが、それだからとて龍渓が共和政治を理想とし、日本に共和政治を採用しやうとしたのだなど考へるの…

次にムフを読む時は。

以下の点に注意して読んでくるつもりです。 ・闘技的民主主義のルールを守らない者(独裁国家・テロリスト・重犯罪者・カルト宗教等)にどう対処するか? ・闘技的民主主義のルールを守れない者(幼児・新生児等)に対しては? ・ムフは平和主義をどう考えて…

峻別しない。

「世界は一家、人類はみな兄弟」的な思想は、どうも私にはなじめないものがあります。 (毛沢東やポルポトを兄弟とみなせるでしょうか?) かといって、友と敵を峻別するシュミット的な思想は、平和主義者である私にはもっと受け入れがたいものです。「敵は…

トクヴィル『アメリカにおけるデモクラシーについて』(原著一八三五)

松本重治責任編集『世界の名著 33 フランクリン ジェファソン ハミルトン ジェイ マディソン トクヴィル』(中央公論社 一九七〇)より。 デモクラシー論の古典ということで読んでみたのですが、私には難解でした。論文の締め切りが迫っていることもあり、…

民主主義者カリストラチウス

矢野龍渓『経国美談』中にも、ムフ的な闘技的民主主義の体現者がいないもんかと探したら。 それに近い人が見つかりました。『経国美談』後篇の登場人物、阿善(アゼン)純正党の若手政治家、カリストラチウス。平等主義者ヘージアスに対する批判者として登場…

シャンタル・ムフ『民主主義の逆説』(以文社 二〇〇六)

「アレント、ムフ、ランシエール」という副題の論文が見つかり、にわかにやる気が出ております。理論苦手の私ですが、今回の『経国美談』論ではそのあたりを避けて通れないので。 で、シャンタル・ムフの民主主義観のあらましを。『民主主義の逆説』第4章「…

「民主主義」「デモクラシー」と名のつく論をかたっぱしから

コピーしてきたわけですが。正直混乱気味です。 「多数者の専制をいかにして防ぐか」といったあたりの問題意識を軸に、明日整理してみようと思います。

しかし『経国美談』のデモクラシーも

確かに「人民に政権」と書いてデモクラシーとふりがなした箇所はありますが。 実際に政治を動かしてるのは、主人公三人を中心とする「名士」たちであって、名も知れない民衆の動向がつかみづらい、という批判は考えられます。 たまに民衆が出て来たと思った…

たとえばJ・ランシエールなんかに依拠しちゃったりすると

ランシエールの『民主主義への憎悪』あたりを参考文献にしたとしたら。 『経国美談』の主人公三人組がやってることはせいぜい、上からのポリス的統治であり。 乱民・暴民(と作中では名ざされる)計算外の者たち、分け前なき者たちの平等を叫ぶヘージアスの…

矢野龍渓『報知異聞 浮城物語』中の国体問答

今回は龍渓の第二作『浮城物語』から。 海外雄飛を夢見て日本を脱出した主人公一行は巡洋艦を奪取し、「浮城」と名付けたわけですが。 当然のように、立ち寄った港の税関でひっかかるわけですね。どこの国だと。 一行はかねてから用意していた「海王国」の名…

キャスティングボート

『経国美談』後篇。阿善の国で、「純正党」(民主派)と「乱党」(平等派)が争った時の挿話。 阿善にはかねてから「専制党」と「曖昧党」がいて、「純正党」と政権を争っていたわけですが、「乱党」は「純正党」が共通の敵なのをいいことに、イデオロギー的…

矢野龍渓の「東京を自由都市に」計画

龍渓という人が、「福沢の高弟」や「穏健な立憲改進党」という枠におさまらない、激しさを持っていたことを示す一例。明治一〇年、西南戦争の時の話です。 ※ かゝる時に於て、当時まだニ十歳代である先生の胸奥にひそむ革命的志士の熱血が湧き出ずにはゐない…

表世晩『明治社会思想と矢野龍渓の文学』(博士論文 二〇〇一)

以前、『浮城物語』で発表した時にも参考にさせていただいたことがある、表世晩氏の学位論文です。 従来の説にあるように、『経国美談』は立憲改進党のイデオロギー的宣伝なのかと、物語がスパルタ王政制に対するセーベ共和制の勝利になっていること、過激な…

池上彰『これが「日本の民主主義」!』集英社 二〇一六

デモクラシーについて根本から考えようと思い、読んでみました。が、戦後(特に平成以降)の話題がメインで、期待していた内容とは違うようでした。 「おわりに」にはこんな言葉が。「民主主義が日本にもたらされたのは、第二次世界大戦後のことでした」。矢…

言うほど立憲改進党か?

矢野龍渓の『経国美談』は、立憲改進党的(あるいは反自由党的)な思想で貫かれているというのが、柳田泉以来の伝統的な評価なのですが。 しかし、自由党系の活動家にも愛読されていたとか、そもそも作中に描かれている斉武は共和国であるとか、疑問の余地は…

経国美談コミカライズ。

私は読書ノート代わりに、読んだ本を簡単なまんがにする習慣がありまして。 『経国美談』を8コマ(ノート見開き)にしたところ、周囲からはわりと好評でした。 村上春樹の『騎士団長殺し』の時は「?」な感想しか返ってこなかったのに。 作品の優劣というわ…

ジャーナリストはいかなるデモクラシーを描いたか。

今回の論文の副題は、「ジャーナリストはいかなるデモクラシーを描いたか」あたりでいこうと思います(細かい変更はあるかもしれません)。 「ジャーナリズム」でないのが残念ですけど。新聞小説だったらよかったんですけどね。 比重は「いかなる」の部分で…

政権交代。

博士論文の序論で『経国美談』を扱った時は、後篇後半の平和主義をめぐる部分が中心でした。 今回、『経国美談』全篇を視野に入れた論文を書くにあたっての切り口は、 政 権 交 代 で行こうと思います。読み返して気づいたのですが、善玉悪玉問わず、ことあ…

『経国美談』を読む方針。

『経国美談』の先行研究はわりと豊富なのですが、中韓への翻訳され方を扱った研究や、文体論に比重をおいた研究が進んでいるようです。 もちろんそれらは重要なことなのですが、語学力のない(どころか、返り点なし漢文の作中評さえろくに読めない)私が今さ…

ヘージアス・沼倉・民主主義の問題点

『経国美談』と「小さな王国」をいったりきたりしていると、つい変な感想を抱くものでして。 前者の登場人物ヘージアスと、後者の沼倉は、ともに「民主的に選ばれた専制者」でして。多数派が専制者を民主的手続きのもとに選んでしまった場合、民主主義を守ろ…

坂野潤治『明治デモクラシー』(岩波新書 二〇〇五)

明治と大正、政治と経済をいったりきたりの日々です。今回は明治の政治で。 矢野龍渓関係を重点的に探し読みしたら、一か所見つかりました。かっこ内は原文通り。 ※ 福沢の高弟で太政官権大書記官(現在の内閣官房副長官あたりか)の矢野文雄が起草した、大…

輦は輩でした。

春陽堂版『経国美談』後篇に「安太隆輦」という謎の文字があった問題ですが、国会図書館蔵の初版本を見たところ、 「安太留輩」 だと判明しました。厳密にいうとこの安太留も「安太隆」(作中人物アンタルキダス)の誤りなのですが、これ以上の詮索はなしと…