博士論文の序論で『経国美談』を扱った時は、後篇後半の平和主義をめぐる部分が中心でした。
今回、『経国美談』全篇を視野に入れた論文を書くにあたっての切り口は、
政 権 交 代
で行こうと思います。読み返して気づいたのですが、善玉悪玉問わず、ことあるごとに政権交代の話ばっかりしてる小説でして。私小説じゃなくて公小説。
作中から代表的な箇所をひとつ。人民参政の欠点は執政者がころころ変わって安定しないことにある、と述べる政敵に向かって、イパミノンダスが反論する場面。
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執政者の屡々(しばしば)更迭する是れ人民参政の人民に利益ある所以なり若し執政者更迭せずして民心に背く者永く政柄を執らば斉武(セーベ。主人公たちの国)人民の不利果して如何ぞや
『経国美談』「第四回 兵威を弄て公会を解散す 大会堂に諸名士縛に就く」
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短絡的に現代の誰かにあてはめるわけではありませんが、デモクラシーの健全な運営のためには、円滑な政権交代が不可欠です。『経国美談』は決して過去の遺物ではないと私は考えます。