今回は龍渓の第二作『浮城物語』から。
海外雄飛を夢見て日本を脱出した主人公一行は巡洋艦を奪取し、「浮城」と名付けたわけですが。
当然のように、立ち寄った港の税関でひっかかるわけですね。どこの国だと。
一行はかねてから用意していた「海王国」の名を答えるわけですが。
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「国体は如何」余、低声笹野氏に注意して曰く「共和政国と遣付けよ」氏曰く「否な、王国なり、々々々々」余乃ち二字を加て曰く「立憲王国」
矢野龍渓『報知異聞 浮城物語』(一八九〇 一五〇ページ)
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なお、「海王国」のリーダーの肩書は大統領で、憲法があるとか作ろうとかいう話はこれまで出てきていません。立憲でも王国でもないのですが、そのへんを固めておく余裕がなかったのでしょう。
龍渓自身、理想の政体についての考えが定まってなかったのかも知れません。この時点では。