核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

宮城谷昌光『子産』上下(講談社 2000)

 『春秋左氏伝』の20世紀日本における受容の一例、というわけで読んでみました。
 鄭の大夫で、孔子から「古の遺愛なり」と評された賢人、子産が主人公です。同時代人なので宋の向戌も出てきます。
 「向戌(しょうじゅつ) 宋の左師 晋と楚の和平を斡旋」
 と、下巻の「主な登場人物」にあります。
 向戌がよびかけた、紀元前546年の、諸侯間の戦争を停止させるための大会については、下巻279~286ページ、「和と争」の章に。

   ※
 ―これで中華から戦いがなくなる。
 と、まともに信じた人はいないであろうが、ほっとした気分につつまれたことはたしかである。(略)戦争が頻発(ひんぱつ)すれば、国は疲労する。そういうことがわかっていながら戦わねばならぬというやりきれぬ事態は、今後は回避することができそうである。
 (281ページ)
   ※

 その一方、「南北和平は、鄭にとって慶事であるが、すくなからぬ苦痛をともなっている」とも、子産の立場から書いています。晋・楚の両大国に幣貢を献じるとりきめになり、外交費が増大したわけです。そこから子産の農政改革、学校建設、成文法の制定といった大事業が始まることになります。
 平和をよびかけるのも命がけの時代ですが、平和を維持するのはそれにもまして難しい。そう感じさせる子産伝でした。