核兵器および通常兵器の廃絶をめざすブログ

近代文学研究を通して、世界平和を考えています。

神近市子「アイデアリストの死」

 国会図書館のデジタルコレクションで、「解放群書25」(解放社 昭和三)という本に収録されていたこの作品が読めました。初出ではありませんが、それは後で探すとして。

 差別廃絶の理想を抱く泉という医師が、被差別部落の女性と結婚するものの、自身が患者や親類から差別されるようになってしまい、失意のうちに自殺するという顛末を、私立興信所員の眼から描いたものです。

 まったくやりきれない話です。差別に加担しない者、差別を止めようとする者が、次は差別の対象になるというのは、子供のいじめでもよくある話ですが。

 語り手の興信所員は、「自分のペンが何をも為すものではない」という無力感にとらわれるわけですが、神近市子はどういう心境でこの作品を書いたのでしょうか。

 まさか「自分が差別をされないためには、差別者にまぎれこむに限ります。差別におおっぴらに反対する人はみんなバカです」なんて、ひろゆき氏みたいなマキャベリズムを抱くような神近市子でもあるまいに。差別という現象の重さ、外から差別をなくすことのむずかしさを描こうとしたのではないかと思います。

 伊藤野枝「火つけ彦七」との直接の関係はなさそうですが、これはこれで論じるに値する作品です。