今年の初読み。「百の小説」とあるとおり、情報量の多い本です。
まずは「火つけ彦七」関係。
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全国水平社の機関誌『水平』は第二号で廃刊になったが、第一号(大正一一年七月一三日刊)に伊藤野枝「火つけ彦七」、
(二〇三頁)
この作品は作者が『水平』誌に初めて書き下したものではない。『解放』誌(山崎今朝弥編集)に発表されたものの転載である。
(略。あらすじ紹介)
いかにも、直接行動主義のアナーキストらしい小説である。また、アナルコサンジカリズムの影響も少なくなかった。初期の水平社の徹底的糾弾闘争を支える心情に、対応するものがあった。
(二〇四~二〇五頁)
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そして二〇六頁には、神近市子が部落問題を扱った「アイデアリストの死」(大正一二年)の紹介があります。こちらは「火つけ彦七」よりも後に書かれた作品であり、上から、外からの理想主義的な反差別運動家が自殺に至るまでを書いています。
作者神近は、「この作品ではアナーキスト的な視点から脱却して階級的な視点に近づいていることがうかがえる」と、北川氏は評価しています。読む必要がありそうです。